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〈8〉お母さんは心配症
八代の言葉に、母はキョトン顔をした。
いや、そのリアクションはおかしいでござろう。
「そうねぇ、男同士で愛し合うなんて変わってるとは思うわ。でも、それって私がパパ……男の人を愛してるからそう思うだけであって、同性を好きになる人たちにとってはそれが自然なことだし、少数派か多数派かの違いじゃないかしら?」
母の返答に、拙者はまた驚いてしまった。
母は拙者のことをよく変わっているというが、自分も十分変わっていると思う。
そういえば昔からテレビ等でオネエタレント等が出ていても、母は『この人たち面白いわねえ』と言うだけで、彼らのことを悪く言ったりすることはなかったような……?
八代は、続けて母に質問した。
「俺はその……ゲイで、永田君はノーマルですけど……もし俺と永田君が付き合うことになったらお母さんは嫌ですよね? 他人はいいかもしれないけど、実際身内がそうなったら話は違うんじゃないんですか?」
おお……八代の奴、随分と攻めた質問をするでござるなぁ。
というか何の話をしてるでござるか!? 拙者がこいつと付き合うとか有り得ねぇぇし!!
キスとかしてる仲ではあるけども!!
「うーんそうねえ、びっくりはするけど別にいいと思うわ」
「「えぇえぇえ!?」」
拙者と八代は同時に声をあげて驚いた。
だって今この人、息子が同性愛者でもかまわないと言ったぞ!!
雨宮氏の母君ならともかく!!(雨宮氏が南條先生と付き合った際の家族の反応を前に聞いたが、それはそれはひどいものだった)
「だって、愛し合っているんでしょう?」
「で、でも男同士ですよ!? 世間体とか色々気にするじゃないですか、親なら」
「おい、付き合ってないからな!! そんな予定もないからまるで拙者たちが愛し合っているような体で話を進めるな!!」
待て待て待て!! マジでちょっと待て!!
なんで付き合ってるのを親にカミングアウトしてるような雰囲気なんでござるかぁぁっ!!
どうしてこうなった――……
「だって、息子が一生独りでいるよりかは誰かと一緒にいてくれたほうが親としては安心だもの!」
「は?」
母の言葉に、今度は拙者が言葉をなくしてしまった。
一生独り? ……誰がだ?
「隆星、あなたアニメーションじゃない生身の女の子は嫌いだし、一生結婚もせずに独り身のつもりでしょう? というか人間そのものにあまり興味がないわよね?」
「い、いや……たしかにその通りかもしれないが、んなシビアな……」
母は、既に拙者が一生独り身だと決めつけていたでござるか……。
確かに結婚はしたくないと思っていたが、なんか知りたくなかった事実でござるな……。
「ママもパパも貴方の将来が心配なのよ? 友達も恋人も作らずに、もし私達が死んじゃったらこの先一人でどうやって生きていくんだろうって、本気で心配しているの!」
「いや、友達いるし……」
「今の学校のお友達はみんないつかは家庭を持って独身者とはだんだん疎遠になっていくの! そういうものなの! 社会人になって新しい友達を作るとか、そんな器用なことが隆星ちゃんにできるの!?」
「い、今はネット社会だし、友達なんてSNSで簡単に……」
「そんなの顔も名前も知らない一過性の友達じゃないの! そんな人たち、孤独死しても気付いてくれないのよ! ああもう、隆星ちゃんったら考えが浅すぎるわ! ……だからね八代君、貴方が本当に隆星ちゃんのことを愛してくれているのなら私たちは大歓迎よ、反対なんかしないわ。むしろずっと隆星ちゃんと一緒にいてあげて? 私達亡きあと隆星ちゃんをひとりぼっちにしないで……!」
「お義母さん……はい、勿論です!」
「おいぃぃ!?」
今、なんか変なニュアンスが混ざらなかったでござるか!?
それとなんで拙者、一生ぼっち認定されてるでござるか!?
恥ずかしくてとても本人には言えないが、拙者、雨宮氏だけはズッ友だと思ってるでござるよ!?
たぶん向こうもそう思ってくれてると思うでござるよ!?
つーか自分達の死後のことをまだ高校生の八代に託すなァァ!!
「あ~良かった! 今度パパが帰ってきたときにいい報告ができるわ! 八代君、これからも息子をよろしくね」
「こちらこそ、次は是非お義父さんにも挨拶させてください」
「ええ、喜んで!」
「いやいやいや待て待て待て」
まだ付き合ってすらいないというのに、なんだこの婚約したような展開はぁぁぁぁっ!?
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