「ふ、ふふふふ……」 　ヤバイ。 　ヤバイヤバイヤバイ。 　このBLマンガ、どちゃクソ萌える……！ 「やっべぇぇ～……！萌えるゥゥ……！」 　俺はプルプルと身体を震わせながらシワにならないように丁寧に本を開き、お気に入りのシーンを何度も読み返す。 　何なんだ！この超可愛い告白シーンは！！ヤバイ！！マジでヤバイ！！尊すぎる！！ 「ねー萌えるでしょ？このマンガ。うっちゃん絶対好きそうと思って持ってきちゃった。多分今年の本屋BL大賞に選ばれると思うんだよね～」 「マジで、そんな話題作なの！？」 「ん～ジワジワ人気出てる感じ？」 「なるほど間違いない。さすがですりっちゃん様！！」 　教室の隅で、セミロングヘアの可憐な美少女と二人で興奮気味に語らっている俺の名前は雨宮卯月(あまみやうづき)、17歳高校二年生。一見なんの変哲もないリア充の男子である。 　ただ一緒にいる美少女りっちゃんこと池田律(いけだりつ)がお友達ならぬ腐友達で、男同士の禁断愛に萌える話をしていなければ……だ。 　 　すると。 「あー！私もその本読んだよ、受けがツンデレで最っ高に可愛いよね……告白シーンとかもう超震えたし！それと攻めがイケメンすぎないのもいいっていうか」 　またひとり、新たな美少女――こちらは萌え系ツインテール――が現れた。彼女の名は深町藍(ふかまちあい)、通称あいちん。 　俺はあいちんのわかりみ溢れる感想に同意を示すべく、ぶんぶんと勢い良く頷いた。 「さっすがあいちん、俺も震えた！チワワのように震えたよ！ツンデレで不器用な受け、可愛いすぎかよォォ……！」 「へーその本そんなに面白いんだ、私にも貸して？うっちゃん」 「いいよ！かなやん」 　そしてまた、三人目の美少女が現れた。ショートヘアで長身、モデル体型の彼女はかなやんこと大月香奈(おおつきかな)。 　そんなわけで、俺雨宮卯月は現在三人の美少女に囲まれている。俗にいうハーレム状態というやつである。俺たちの関係を知らない奴らから見れば、だけど。 「あ、これりっちゃんの本だった。りっちゃんごめん、次かなやんに貸してもいい？」 「もちろんいいよ～、萌えを共有しよう！」 「りっちゃんありがとう！明日私のオススメ本も持ってくるね、ちょっと絵が古いんだけどめちゃくちゃ萌えるの！」 「なにっ！？それは是非俺にも読ませてもらえると……！」 「わたしにも是非……！」 　新たな萌え漫画の予感に思わず乗っかる俺とあいちん。かなやんはアハハと可愛い顔で笑って承諾してくれた。 「いいよぉ、じゃありっちゃんの次にうっちゃん、あいちんが読んだら返してね。……そうだうっちゃん、雨宮先生の次の新刊いつ出るの！？もう待ちきれないよ～！」 「んーと、あと二ヶ月先かなぁ」 「まだそんな先なの～！？うっちゃんは発売前に読めるからいいなぁ！」 「アシやらされてるからね、人使いが荒いぜかーちゃん……俺だって夏コミの新刊執筆中なのにさぁ……」 　俺の母親はBL漫画家だ。ペンネームは雨宮ヤヨイ(本名は雨宮弥生)、現在人気BL雑誌で連載しています。ちなみに父親はその雑誌の編集者です。母がデビュー作の原稿を持ち込んだ際に出逢ったそうだ。 「えーうっちゃん新作！？読ませて読ませて～！てか、原稿手伝おうか？」 「え、いいの？是非おねがい！今下書き中だから線画終わったらよろしく」 「私も手伝う～、トーンやらせて！」 「じゃあ私モブ描くー！」 「是非是非」 　イベント時の締め切り前夜は家中が修羅場と化すので、その申し出はかなり有難い。毎回お世話になってます、絵師さんたち。 　ちなみに俺たちは全員美術部員だ。BL研でも漫研でもない。 「うっちゃんの漫画も楽しみだけど、葉月(はづき)さんと皐月(さつき)さんの漫画と小説も楽しみだなぁ！ねぇ、如月(きさらぎ)さんは次のイベントで誰のコスするの？」 　俺を含め、俺の姉たちもBL漫画、BL小説書きだ。姉弟でオリジナル漫画の同人サークルをやっている。三番目の姉の如月だけ、コスプレイヤーだ。 「まだ秘密だって。驚かせたいらしいよ、俺に言うとすぐバラすからって」 「きゃーっ楽しみすぎるぅ！！如月さんのコス、ホントに再現率高過ぎだよね！！ああ～うっちゃんの家がホントにうらやましいよぅ……交替して！わたし、毎晩如月さんのベッドに潜り込むから」 「き、きさ姉は渡さないぞ……」 　かなやんは如月こときさ姉の大ファンだ。そして俺はシスコンだ。 　ちなみに姉たちは上から順に葉月(はづき)、皐月(さつき)、如月(きさらぎ)、そして俺が末っ子長男の卯月(うづき)。どこぞの波瀾万丈ホームドラマのような名前の姉弟だけど、渡る世間に鬼はいない。 　いるのは、腐女子ばっかりだよ！！