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第2話 エリート腐男子
改めて自己紹介しよう。
俺の名前は雨宮卯月 。四月生まれの17歳高校二年生、美術部所属、あだ名は『うっちゃん』。BL好きな一家に生まれ、幼い頃から母と姉たちによる英才教育を受けてきた俺は、今では超筋金入りのエリート腐男子だ。
なんじゃそらって?俺もそう思う。とにかくBLが大好きだ!普通の漫画も好きだけど、どうしても腐 ィルターがかかってしまうのはご愛敬。
ちなみに父親は腐男子というか、ただのマンガ好き。でもBL漫画雑誌の編集者だし、普通に熱く語れるから腐っているんだと思う。
俺の腐仲間も改めて紹介しよう。
中学の頃から俺の一番の親友、池田律 ことりっちゃん。持っているBL漫画の冊数は数えきれない。萌えるBL本を発掘しては毎回みんなに貸してくれる有難~い存在だ。見た目はおっとりとした美少女で男子に人気があるけど、本人は興味ありませんとばかりにクールだ。
高校に入って仲良くなった深町藍 ことあいちん。俺と受けの好みが似ていて、二人で語り出すと止まらない。ネットで創作BLを読むのが趣味だ。少し丸顔でツインテールで女の子らしい容姿なんだけど、ノリがよすぎるところはちょっと男子みたいだ。
きさ姉のファンとしてイベントで知り合い、その後同じ学校で同級生だと発覚した大月香奈 ことかなやん。モデルのようにすらりとした手足を持つ長身で、ショートヘアが似合ういわゆるイケメン女子だ。本人も極度のイケメン女子好きで、オタクの交友関係は俺たちの中で一番広く、活発だ。
三人とも筋金入りの腐女子だけど、見た目の華やかさから全然オタクには見えない。だから俺はいつも可愛い女子を侍らせてハーレムを楽しんでいるスケベ野郎だと周りからは思われているらしい。ハーレム状態なのは否定できないけど、ハーレムっつうよりむしろ同化してるんだけどな!
でも、男の友達がいないわけじゃない。同じ学年のオタク野郎なら大体友達だ。うちの学校は運動系の部活が盛んで文化系の部活が圧倒的に少ないから、自然にオタクが美術部に集まってくる。
まぁ、クラスには男子の友達はひとりもいないけど……でも別に全然困らない。彼らは俺の妄想対象だから。少し離れたところで観察しているのが一番楽しいんだ。
っていうか堂々と教室でBL漫画読んだり描いたりしてるから俺はホモだと思われている。ハーレム云々を言ってる奴は大抵違うクラスの奴だ。
だがしかし!俺はホモじゃない!!BLが好きなだけだ!!
これは声を大にして言いたい。ホモなのか?と聞かれたらそう答えている。大抵「??」って顔をされるけど。
俺はホモじゃない。だがしかし……
実に恥ずかしい話だけど、雨宮卯月17歳、初恋もまだなのである。
俺が恋をできない理由はいくつかある。
まずひとつめ、物心付いた頃から姉3人と一緒に生活しているから女性に対する理想や幻想を持っていない。女だって毛が生えるしうんこもするし、挙句の果てに下着姿で家の中をうろついたりするんだ。女らしいってどんな仕草のこと?
一応俺は家族の中では恥じらう方だ。裸で家の中を歩こうものなら、ナマのDK の身体を観察しようと家族全員から視姦されるから。どんな家だよ。
ふたつめ、好きになる女子の種類がない。幼いころからBL漫画に慣れ親しんできた俺は、恋愛は男の子と男の子がするもの、と教えられていた。(なんて家族だ)もちろん、そんな馬鹿な洗脳はすぐに解けたけども(たぶんな)。
BL漫画に出てくる女子は攻めの元カノだったり、受けを陰でいじめたりする『当て馬系女子』と、BLカップルを陰で応援し愛でる『腐女子』しか存在しない。
そう、『普通の女子』は存在しないのだ。
そしてそれは、現実でも同じなのである。
……いや、同じじゃないかもしれないけど、俺の中では女子はその二種類しか存在しない。いわゆる『当て馬』と呼ばれる大半の女子は腐男子の俺を気持ち悪がって近づかないから、仲良くなるのは腐女子のみ。
でも、腐女子の皆さんは俺の同志であり、仲間であり、友達だからそういうイヤラシイ目では俺は見れない。それがどんなに可愛くても、だ。
実際、りっちゃん達は彼氏がいてもおかしくないくらい可愛いけど、『彼氏と遊ぶよりうっちゃん達と遊ぶ方が楽しい』とか『もし彼氏ができたらうっちゃんとラブラブにさせてそれを眺めていたい』とか言ってるからな……どうやって恋愛対象にしろというんだ。
ちなみに俺は受け属性らしい。自分的にはどっちでもないというか、相手が男だろうと女だろうと恋をしたことがないからよく分からない。
クラスの男子同士をくっつけて妄想するのは楽しいけど、どっちかが自分だったらなんて想像もできない。というか、そんなの全然萌えないし!
だからきっと、俺はこの先も同じ。傍観者であり続けるんだろうと思う。
エリート腐男子として!!
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