＊ 　今は化学室で化学の授業中。実は俺、結構お勉強が得意な男子だ、特に理数系。 なのでテスト前はりっちゃん達に勉強を教えてあげたりしている。毎回原稿を手伝ってもらっているお礼も兼ねてだ。 　中でも一番得意な教科は化学。なぜかというと…… 「えープロパンが完全燃焼したときの化学反応式を……吉村、前に出て来て書け」 「えっ！？は、はい……」 　化学教師の南條志信(なんじょうしのぶ)先生が、めーっちゃくちゃイケメンだから！！27歳くらいかな？化学教師なのに(偏見だけど)全然根暗っぽくないし、もうほんとうに男前なんだ。テレビで見る芸能人より綺麗な顔をしてると思う。 　授業はまったく面白くないけど、真面目に聞いてたらすごく分かりやすく説明していると分かる。それでもみんなぜんぜんわかんないって言うんだよなぁ。 　ハンパなく顔がいいからさぞかし女子にモテると思いきや、あまりにもとっつきにくいため実際はそうでもない。少々ブサイクでも面白い授業をする先生の方が人気なのだ。たとえば、社会の小川先生とか。俺は断然南條先生派だけど！ 　南條先生は顔もカッコイイけど、一番好きなのは声だ。まるで人気声優ですか！？ってなくらいいい声をしている。目を瞑って授業を受けると、まるでBLCDを聞いてるみたいな気すらする……耳が幸せだ。 　さっき当てられた吉村くんは、俺の中でクラスの受け男子ランキングナンバーワンを誇る美少年だ。勉強はあんまり得意じゃないみたいだけど。 　前に出たはいいけど、全く解けなくてあたふたしてる……かーわーいーいー！ 　吉村君をじっと見つめてる南條先生。きっと『あぁ、困ってる顔も可愛すぎるぞ、俺の吉村……！』とか思ってるんだろうなー！南條先生×吉村くんマジでおいしい。でも吉村くんは総受けだから、相手は南條先生だけじゃないんだよなぁ！ざんねん！ 　そんでもって、そんな南條先生と吉村君のやり取りをやきもきしながら見てるクラスの男子たち。それぞれが『吉村は俺のだぞ……！』って思ってるな、絶対。 　ああ～化学の授業楽しい、妄想が捗る！もちろん授業も真面目に聞いてるよ！ 「解けないのか？じゃあ、……雨宮」 　ウフフ……南條先生マジでカッコイイなぁ……今描いてる漫画の攻めも、モデルは南條先生なんだ。実物観察しまくって再現度上げなきゃ。 　……あれ？南條先生、なんか俺を見てない？ 「うっちゃん、当てられてるよ！」 「え？」 　後ろからりっちゃんに小突かれて、俺はぱちぱちと数回、瞬きをした。 「雨宮。前に出て吉村の代わりに解いてみろ」 「は、はいっ！！」 　 　俺はガタッと派手な音を立てて、慌てて立ち上がった。 　やっべー、マジびびったぁ～！！俺当てられてたのか、妄想に入り込み過ぎて気付かなかった！ていうか南條先生が『雨宮』って！俺の名前をイケボで呼んだよ！もう一回呼ばれて着ボイスにしたいよぉぉぉ！！！ 「ごめんね雨宮……俺、全然分からなくって」 「ううん、気にしないで」 　自分が解けなかったせいで俺が当てられたのを、吉村くんは律儀に謝ってくれた。性格もいい美少年とか最高かよ。 　俺はホワイトボードマーカーを吉村君から受け取り、キュポンと蓋を外した。頭の中で考えながら、きゅっきゅっとアルファベットを綴っていく。 「えっと……答えはC3H8＋5O2→3CO2＋4H2Oです」 「正解。席に戻っていいぞ雨宮、吉村も」 　ふふふ、常に妄想してても解ける俺、マジで頭よくない？席に戻るとりっちゃんが小さく拍手してくれた。 「……雨宮」 「は、はい！？」 　何故かまた南條先生ボイスで『雨宮』頂きましたァ！！耳が天国です！！ 「……昼休み、化学準備室に来なさい」 「へ？」 　な…… 　なんで！？俺、正解したのに！？