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第6話 渡鬼姉妹
知恵熱が出た……齢 17にして。
「そんなわけだから悪いけど先生にそう伝えてくれる?マジでごめんりっちゃん、あ、あとかなやんの漫画は先にあいちんが読んでかなやんに返してって言っといて。りっちゃんは今日中に読むだろ?……うん……うん、ありがと。じゃあね」
同じクラスのりっちゃんに、今日は体調不良で学校を休む旨を担任の先生に伝えてほしいと電話で頼んだ。さすがに知恵熱とは恥ずかしくて言えなかったけど。
昨日、俺は化学室で南條先生にこっ……告白されて、鼻血を出して倒れて頭を打って数秒間気絶して、午後はずっと保健室のお世話になっていたのだった。
南條先生は責任を感じたのかかなり心配してくれて、帰りも車で送ると言ってくれたけど俺は逃げるようにして帰ってしまった。晩御飯はあまり喉を通らずに家族を心配させ、あまつさえ今朝は高熱を出したのだった。
なんなんだよ、もう。
イケメン教師に告白されたくらいで、俺……
って、マジで信じらんないよおおおおお!!!!
「教師に告白されただと……!?」
「うわぁ!」
ベッドの脇に如月 姉ちゃんがいた。座ってたから気付かなかった……!つーかいつから居た!?それと俺、声に出してた!?
「卯月、詳しく聞かせろ!いやちょっと待て姉さん達を呼ぶから!!」
「ちょ、きさ姉ストップ……!」
バターンッ!!
「卯月、イケメン教師に告白されたですってぇぇぇ!?何なのその超面白そうな話は!!!」
「ちょっとヤバいよヤバいよおかあさーん!!卯月がついに覚醒したぁぁぁ!!」
ドアの外にスタンバイしていたらしい、長女の葉月姉さんと二女の皐月姉さんが出〇哲郎のように大声で叫びながら俺の部屋の中へ入ってきた。
俺、熱が38度もあるのに……きっと、全て話すまで解放されないんだろうな。がっくりと肩を落として観念した。姉たちに逆らえるわけがない。
「ついにこの日がきたのねー!今夜はお赤飯炊かなくっちゃ!」
母がるんるんとスキップでもしそうな雰囲気でわけのわからないことを言った。ちなみに母は漫画家だから常に家に居る。父はもう仕事に出掛けたようだ。
長女の葉月 姉さん(25)は看護師。もう8時だけど仕事行かなくていいのかな?
「今日は夜勤だから遅くなってもいいんだもーん」
二女の皐月 姉さん(23)はアパレルショップ店員。仕事行かなくていいの?
「私いっつも9時出勤だけど?アンタ知らなかったっけ」
三女の如月 姉さん(19)は美容専門学校生。あの、学校は……?
「遅刻して行く!!」
えええええ!!そこまでして弟のこんな話が聞きたいかぁ!?
俺は再度、ガックリと肩を落とした。
「うっちゃん昨日帰ってきてから元気無いし、ご飯もあんまり食べなかったから学校で何かあったのかしらとは思ってたけど……」
「まさかそんな面白いことが起きてたなんてねー!」
「今度の新刊、先生×生徒モノに変える?お姉ちゃん」
「早く話せ卯月、学校に遅刻するだろ!」
はーいはいはい。うぅ、きさ姉遅刻するんじゃなかったの?
そして俺は、コトの顛末を詳しく赤裸々に語ってみせた。俺が告白された部分じゃなくて、いかに南條先生がイケメンで最強の攻め様であり、うちのクラスが誇る美少年・吉村くんとお似合いなのかって話をだ。誤魔化されろ。
しかし案の定、姉さんたちは全員いらっとした顔をした。
「あのさー卯月。その吉村君と南條先生の関係は単なるアンタの妄想でしょ?そんで、南條先生が好きなのはアンタなんでしょ?だったら妄想はチラシの裏にでも描いてろ!」
「そうだ、僕たちは南條先生とお前のやりとりが聞きたいんだよ!」
「どこまで開発されちゃったの?うっちゃん、最後までヤられちゃったのっ!?」
お……鬼だぁぁぁ―――!!この姉ちゃん達、鬼だよォォ―――!!
さすが皐月姉さん、昔から泉ピ〇子と言われてただけあるよ(俺に)、恐い。これ言ったら殴られるから言わないけど。(たまに言うけど)見た目は普通のオシャレなお姉さんなのに、中身がめちゃくちゃ裏切りまくってるよ。
如月姉さんも見た目は完全にただの金髪イケメンなのに、ホモに興味津々すぎるだろ。完全な腐男子です。ところでいつまでその僕っ子続けるの?
葉月姉さんにいたっては弟のことなんだと思ってるの!?ヤられたとか生々しいこと言わないでよ!!
お母さんは必死にメモってるし……息子のそういうのを漫画のネタにしようとするのやめてよ……ふえぇ……。
「だーかーらぁ、きっ、キスされて告白されて抱きしめられたの!それだけだよっ!」
身内にこんな恥ずかしいことを尋問されるなんて……尋問されてるのが俺じゃなかったら、完全にあっち側だけどさ!!あ、でも姉さん達の恋愛話とか正直あんまり聞きたくないな。
「それだけ~?なんでもっとグイグイ行かないのよ、卯月ったらそれでも雨宮家の男子!?」
「そうよ、こんな美味しいシチュエーション人生に一度あるかないかなのに!」
「もう一回キスされるところからやり直しだな」
「やり直しってなんだよ!大体俺は南條先生のことが好きだとか全然そういうのないし!ただ、高身長イケメンでイケボで優しくて授業が分かりやすくってお気に入りの先生だから俺の中で最強の攻め様に認定してるだけなんだよ!!大体南條先生には吉村くんという最強に可愛い受けがいるんだからな!!俺が入る隙なんかないの!!」
「「「「………」」」」
あ、あれっ?今度はなんで黙るの、姉さん達。
「……卯月」
まるで慰められるように、如月姉さんに肩を叩かれた。
「な、なに?」
「お前、完璧にハマってるぞ。その、南條先生に」
……え?
「DKが普通男の先生にそんなに入れ込むか?相手がエロい女教師ならわかるけど」
いや皐月姉さん、だからそれは南條先生がイケメンだからであって!社会の小川先生は俺なんとも思わないよ!?ちなみにうちの学校にはエロい女教師は存在しません。
「ねえ卯月、明日その先生連れてきなさいよ、家族総出で歓迎するから!」
いやいや、ちょっと待ってもう恋人認定なの?葉月姉さん気が早いよ!つーか俺自身は何一つ納得してないんですけど?
「卯月をお願いしますって私たちがお願いしなくちゃ。何も知らない純粋な子なので、どうか正しい性教育の指導をよろしくお願いします、って。ウフッ」
おかあさ―――ん!!!!
なんかもう突っ込みどころがありすぎるんですけど!!!男同士の正しい性教育って何!?知識だけならもう嫌になるくらい頭に入ってるけど!?
ああ……なんか熱が上がってきた気がする……。
「うぅーん」
ばたっ
「ありゃ、倒れた。完全に知恵熱だわこりゃ。お母さん冷えピタ取って―」
「はーい。さっちゃん、うっちゃんにお水飲ませてあげて」
「確かポカリもあったよね」
「僕は学校に行ってくる!卯月、夜は南條先生へ告白の返事を考えような!!」
誰か俺を本気で心配してくれる人はいないのか!?
おとうさ―――ん!!!
りっちゃん、あいちん、かなや―――ん!!!
はっ、ダメだ、あの三人の反応は当然、姉さんたちと同じなハズ!!お父さんもお姉ちゃん達の剣幕にビビって何も言わないハズ!!
『あ、雨宮――!!大丈夫か!?しっかりしろ!すまん、いきなりこんなことを言って……』
あぁ、
南條先生が一番俺の心配してくれてんじゃん……。
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