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第14話 南條志信の黒いつぶやき

【南條視点】  俺の顔を見ないように下を向いて弁当を食べている雨宮は小動物みたいで可愛い。俺を見て真っ赤になる姿も、可哀想だけど鼻血を噴く姿も、俺の手で射精する姿も、泣いてる姿もとにかく全部が可愛い。   さっきの発言の内容は97%ワケワカランかったが、まあ世代の違いってヤツだろう。“semesamaセメサマ”が何の単語なのかは、仲良くなってから詳しく教えてもらおう。  俺の名前は南條志信(なんじょうしのぶ)、今年で28歳になる化学教師だ。遠い昔に自覚済みのゲイだが、別にショタコンじゃない。17はショタに入らな……いや、十分ガキか。  高校の化学教師になって早二年。最初はションベン臭ぇ高校生(ガキども)を相手に授業をするなんて冗談じゃねーと思っていたが、それまで在籍していた大学の研究室を俺が振った女の腹いせで変な噂を流され自主退職に追い込まれて無職になり、このご時世だから仕方なく丁度募集していたこの仕事に着いた。  一応取っておいた教免が役に立つ日が来るなんて思わなかった。そして、こんな辺鄙な高校で俺好みのジャスト平凡顔に会えるとはな……!  そいつは2年A組出席番号1番、雨宮卯月(あまみやうづき)。2年の中ではズバ抜けて化学の成績がいい。他の教科は知らないがまあまあいいんじゃないかと思う。  生徒に嫌われる定番教科の化学を理解してもらえるだけでもありがたいのに、何故かコイツは授業中、ず―――っと俺を熱い目で見つめているのだ。  俺は授業中生徒の居眠り防止のためによく当てるので、どいつもこいつも俺とは極力目を合わせないよう下を向いているのに、雨宮だけは穴が開きそうなくらい熱心に俺を見ているので嫌でも目立つし存在も覚える。  完璧に惚れられている……。  俺のゲイセンサーが働かなくても分かった。  高校生相手に恋愛する気なんて一切なかったのに(大体俺は年上が好みなんだ)俺も雨宮を意識するようになって、よく見たら俺好みの顔してねぇかコイツ!?ってなって、気付いたら俺も好きになっていた。  あ、そうそう。雨宮の目に俺がどう映っていたのかは知らないが、俺のイメージが違うとか文句を言うのはやめてくれ。顔がかっこよくて性格もいいイケメン?  存在するか、ンなモンッッ!  イケメンの99%は腹黒で出来ています。イケメン芸能人は優しそうだって?あんなの仕事だから優しいんだよ。優しい自分を演出しているんだよ!騙されてんじゃねぇぞ。  性格歪みすぎ?この顔には今までだいぶ苦労させられてんだよ。(よわい)28、そりゃ性格も歪むってモンだろ。  とりあえず仏頂面で怖い先生ぶっとけばウザい高校生(クソガキ)に懐かれることもない。最初の頃は女子がわらわらと群がってきたが、一人に思いっきり冷たく対応したらサ―――っと噂が広まって全員が離れて行った。JK、ちょろすぎるわ!  もう二度と研究室の時のようなヘマはしないぜ、俺。女は全員敵だ!!  とまあ、そんなことはどうでもいい。  雨宮は男友達が少ないのだろうか、いつも女子と一緒にいる。A組の出席番号2番の池田律(いけだりつ)とはかなり仲が良く、授業が始まる直前までいつも楽しそうにオシャベリをしている。あと、他のクラスの女子と一緒にいるところもよく見る。B組の大月香奈(おおつきかな)と、D組の深町藍(ふかまちあい)だ。  んま―――この三人、容姿はかなりの上玉だが化学の成績は最悪中の最悪だ。まさにザ・文系女子って感じな。なんとか毎回赤点はぎりぎり免れているが、きっと雨宮がテスト前に教えてやっているんだろう。  雨宮は俺のことは大好きみたいだが、ゲイっぽい雰囲気は無い。かといって性同一性障害みたいな中身はオンナノコって感じもしない。いったいあの3人娘とはどういう仲なのか、雨宮好きな俺としては非常に気になるところだ。  でも、池田は今日俺が雨宮を化学準備室に誘った時に後押ししてくれたからな、何故か。キラッキラした目で。  俺の嫌いな女とは少しタイプが違うらしい。雨宮は少し嫌そうな顔をしていたけど……照れていたんだよな!それ以外は考えられない。  それにしても、さっきの雨宮は可愛かった。俺にされるがまま喘いで簡単にイッちまった。反応からして処女確定だな。これから俺の手でどう覚醒していくのかを考えたら、年甲斐もなく胸の高鳴りが止まらないぜ。いや俺はそこまでオッサンじゃない、まだ20代だ。  しかし、問題がひとつ。 『俺は先生のこと、好きとかそんなんじゃありません!』  ……はぁ?  うん、それしか言えない。あれだけ南條先生好き好きめちゃくちゃに抱いてオーラを出していて、なおかつ自ら化学準備室に来て俺に下半身を差し出した癖に、俺を好きじゃない……だと?処女じゃなかったら相当な小悪魔に認定するところだ。  どうして素直に俺が好きだと認めないんだ?  俺は青臭いガキと違って特に言葉にはこだわらないが、あそこまで泣いて拒否されるのは想定外だった。聞けば、俺は雨宮にとって偶像崇拝対象―――つまりアイドルらしい。でも好きなアイドルから好きだって言われたら普通は嬉しいんじゃないのか?毎晩オカズにするくらいの好きレベルだぞ!?  今だって、俺の淹れてやった食後のコーヒーを飲みながらちらちらと俺の様子を伺っているし……うん、小動物だな。雨宮は決してチビじゃないけど、なんか雰囲気が。 「……あの、南條先生はお昼食べないんですか?」 「ああ、午後の授業で眠くなるからな。コーヒーと煙草だけだ」 「そうなんですか」  そうやって俺の情報をひとつ知るたびに、キラキラした目を向けてきて……可愛いんだよ!!くっそ!!くっそ!!!  ああもう、ぜったい近いうちに雨宮の口から『南條先生が好き』って言わせてやる!そして『セメサマ』というセメントの一種みたいなものの詳細を聞いてやるからな!  覚悟しとけよ、雨宮!!

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