21 / 99

第21話 突然の訪問者

「う……」 南條先生に正面からじっと見つめられて、俺は蛇に睨まれたカエルみたいに動けない。目も逸らせない。  鼻血が出ないのは、ビビりすぎて毛細血管が詰まったのかもしれない。 「じゃ、そのままで言ってみろ。雨宮」 「え?な、何を……」 「俺のこと、好きじゃないって」 そのままでって、このまま南條先生と目を合わせたままでってこと……?  昨日は恥ずかしくて目を合わすことすらできなかったけど、何故か先生から目が離せない、今なら言えるかもしれない。俺はごきゅんと生唾を飲み込んだ。 「お……」 俺は、 「俺は……」 先生のこと、 「南條先生のこと……」 好きなんかじゃ、 「好……「すいません!」 俺が言いかけたその瞬間、いきなり誰かの声とともに化学準備室のドアがノックされて、俺は口から心臓が飛び出そうなくらいに驚いた。(ちょっと出たかもしれない) 「チッ、誰だよいいところに……」 南條先生、今舌打ちしたぁ!? でも、俺的には助かったかも……?いや、別に助かってない!だって俺は今、言えそうだったし!南條先生のことなんか好きじゃありませんって、ちゃんと言えそうだったのに。 たぶん……。 「南條先生いますか?……あっ、」 「吉村?どうしたんだ」 吉村くん!? 南條先生に会いに来たのは、俺の中でクラスの受け男子ナンバーワンの称号を持つ、美少年吉村くんだった。 吉村くんは奥に座っている俺の姿を見つけると、「あっ」と小さな声を漏らした。その声に、俺もぴくっと肩を揺らしてしまった。 「雨宮、どうしてここに……?南條先生とお昼食べてるの?」 「う、うん……最近だけど」 「ふうん」 そして、吉村くんはジロリと俺を睨んだ……気がした。  もしかして、これは…… 『南條先生は僕のものなのに、なんでお前みたいな平凡モブ野郎が二人っきりで昼休みを過ごしてるんだよ……!!許せない!!』 って思われてる―――!? 違う違う吉村くん、それ誤解!!GO★KA★Iだから!!俺と南條先生はそんなんじゃないからっっ!!俺は君の敵じゃないよ!!だからお願い、そんなに俺のことを睨まないでぇぇ……!!ヒロインに嫌われるのはきついよぉ!! 「吉村、何か用なのか?」 「あ。あの……授業で分からないところがあるので教えてほしくて来ました」 なんですと!? 「あ、あの!俺はもう帰りますから!!吉村くん、ここの席空くから良かったら使って!?」 「え、でも雨宮まだ食べてる途中じゃないの」 俺は中途半端に食べていた弁当をぱぱっと片づけると、慌てて立ちあがった。 「いいから!ふたりの邪魔をする気は一切ないからね俺!じゃあ南條先生さよーならっ!!」 「雨宮!?」 俺は南條先生の顔も吉村くんの顔もあまり見ないようにして、二人の間を器用にすり抜けて化学準備室を後にしたのだった。 * バタバタと廊下を走りながら、俺は考える。 どうしよう……吉村くん、絶対誤解したよね。俺と南條先生のこと!だって俺のこと睨んでたし。あの顔は絶対、南條先生のことが好きなんだ。好きだから勉強にかこつけて、先生に会いに来たんだよね?吉村くん、化学はかなり苦手なハズなのに。 うはっ!まさに俺の妄想通りの展開……! じゃなくって、喜ぶのは後々!!どうしよう、俺が当て馬になってない!?俺はあくまでも傍観者でいたいのに、当て馬になるなんてもってのほかだよ!! 「……………」 俺のあとに吉村くんの顔を見たら、南條先生の目も覚めるかもしれないな。 そう、たとえば…… 『ごめんな吉村、雨宮なんかと貴重な昼休みを過ごしてしまって……!気の迷いだったんだ、俺が本当に好きなのはお前だけなんだ吉村、いや、彰吾(しょうご)!!』 『南條先生……!僕も、先生のことが好き!』 『彰吾、許してくれるのか……?』 『勿論です!!先生、愛してるっ!!』 ガバッ(抱きあう2人) 『彰吾ぉぉ……!!』 『せんせぇぇ……!!』 ギュッ(かたく抱きあう2人) みたいな感じで……わあ、美味しい!美味しいなこのシチュエーション!!昼飯あんまり食べてないけど、妄想でお腹いっぱいに…… 「………」 あれ……? なんか、胸の辺りが苦しい気がする。 何だこれ? 妄想してるのに、お腹いっぱいにならない……  なんで? なんか、もやもやする。

ともだちにシェアしよう!