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第39話 その頃の南條先生について④

 涙をぬぐってやりながら理由を聞くと、どうやら恐いのは俺じゃなくて恋愛そのものらしい。でも別に大失恋をしたわけでも、嫌な目にあったわけでもなさそうだ。  つまり、想像?恋に恋するってやつの逆パターンか??  ……うーん、やはりコイツは普通のガキとはどっか考え方が違うな。天才か、天才なのか。なんにせよ、俺から見れば可愛いしか言葉がないんだが。 「恋愛が恐いとか……お前はどこまで俺を悶えさせる気なんだ」 「え……」 「前にも言ったけど、俺たちは男同士でそのうえ教師と生徒だし、付き合うのは難しいかもしれないけど、俺は今後こんな風にお前を泣かせたりしないように精一杯の努力をする。むしろ教師なんていつでも辞めていいんだ。……だからお前も、いつまでも恐がってないで俺の胸に飛び込んできてくれないか」  ちょっとクサすぎたか……?いや、でも俺の顔はどんなクサいセリフにもギリギリ耐えられる顔だ!!現に卯月はかなり感動してるみたいだし。あー純粋な子でよかった!!  すると。 「ていうか先生、俺のどこがいいの?俺みたいなモブどこにだって転がってるのに」  なんっっっだその可愛い質問は!!わざとか!?わざと聞いてんのかオイ!!よし、そっちがその気なら乗ってやろう!!――いや、乗るのは卯月の方だった。 「よっと」 「うわ!?」  俺は卯月の身体を持ち上げて自分の膝の上に乗せた。体力はあるんだよな、体力は。スポーツは嫌いだけど……あれは練習を積み重ねた上の技術だからな。俺はいきなりのことに混乱している卯月の腰を支えながら、 「お前みたいに可愛いヤツは、世界に一人しかいないよ」  と言ってやった。 「へっ!?」 「どこがいいのかって聞かれたら……全部、としか言いようがないな。お前は顔も他の奴より可愛いし、性格も控えめで可愛いし、頭もいいし、マジですべてが俺の好みだからな」  全部本音だよ、本音。マジで俺は卯月の全てに惚れてるんだ。なんかもう……病気かってくらい、日に日に可愛く見えてくる。こんな感覚はいつぶりだろうか。   もう何年もセフレとしか身体を合わせてない、身も心も汚れきった大人になっちまった俺が、またこんな純粋な(※当社比)恋心が抱けるなんてな。しかも、相手は高校生。  友人に話したら、鼻で笑われそうだ。  でも、 「好きだよ、卯月」 「は、はひ……っ」  他人にどれだけ笑われても、構わない。 「俺にももう一回聞かせてくれよ」 「……しゅ、しゅきれす……」 「聞こえないぞ?」  この可愛いのをずっと近くで見ていられるなら、誰かに笑われるのなんて些細なことだ。むしろ自慢でしかねぇわ。自分の鋼メンタルに感謝。 「俺も好きですってばぁ!」  あああああもう、可愛いぞ―――!!!俺は再び、卯月の細い腰をぎゅっと抱きしめてその存在を実感した。そしてずっと抱きしめてるのもいいけど、やっぱりキスがしたくなった。 「卯月、顔上げて」 「あ……」  顔を合わせるとまた恥ずかしがって俯くかなと思ったけど、今度は卯月は俺から目を離さなかった。いきなりだと鼻血噴くけど、タイミングと距離次第では平気みたいだな。 「目、閉じていいよ」  そう言うと、ぎゅっと目を固く瞑るのが可愛い。俺の腕をぎゅう、と強く掴んでいるのも無意識の行動か?はあ、可愛い。 「ンッ……」  唇を合わせた瞬間、卯月の口から少し鼻にかかった声が洩れた。向き合って目を閉じたのに、今からキスをするんだって思ってなかったのか?本当に可愛いヤツだな……というか、油断しすぎじゃないか?  まあ、俺相手ならいいか……と思いながら、角度を変えて卯月の薄くて可愛い唇を食むようにむさぼった。本当は舌も入れて思いっきり口内を蹂躙してやりたいけど、そうしたら俺の理性が崩壊するからな。  初めてキスしたときはついがっついてしまったけど、ゆっくり紳士的に教え込んでいくって決めたからな……。 「卯月……今夜、泊まって行かないか?家が厳しいのなら、嘘を付かずにすむように俺が親御さんに電話するから。お前の不安要素は全部取り除いてやりたいんだ。ぶん殴られるのを覚悟で、今から挨拶に伺ってもいい」 「ええっ!?」  ゆっくりってのは何日もかけていって意味じゃない。ヤるのは早いほうがいいに決まってる!!  俺は最低な大人だって自覚はあるぶん、潔いんだ。自分の家族や友人には早々にカミングアウトしているからな。まあ、息子さんをゲイにしました……いや、気持ちを肯定して恋人になりました……なんてことを卯月の親に言ってタダじゃ済まないのは分かってるが、いずれバレるんじゃないかと常に不安になるくらいなら、最初から無くしてやりたい。学校を辞めるなんて、本当に俺にとっては些細なことだ。このご時世だから再就職先を探すのはまた難しいかもしれないが、職業に固執しなければいい。  けど卯月は、今夜は家で母親の作ったご飯を食べなければいけない、という理由で俺の家に泊まることを拒否した。何日か前にケンカして食べなかったことを気にしているらしい。そんなの、俺が高校生の頃はしょっちゅうだったけどな……卯月は本当に優しい子だな、と思う。俺と違って両親に可愛がられ、大事に大事に育てられたんだろうということも伺えた。 「卯月はいい子だな」 「べ、別にふつう、ですよ?」 「可愛いし」 「可愛くないです、モブ顔ですっ」  だから、そういうところが可愛いんだけどな。まあ、説明してもこればっかりは本人には分からないかもしれない。俺の好みの問題でもあるし。  たとえば100人のゲイがいたとして、その全員が絶賛する容姿はきっと吉村の方が格上だろう。でも俺は絶対に卯月を選ぶ。表情や雰囲気、卯月の醸し出す空気などすべてが可愛いと思うから。特に、俺の行動にいちいち赤くなって反応するところが死ぬほど可愛い。 「じゃあ、お泊りは今度な」  俺は卯月の鼻先にチュッと軽いキスをしたあと、バチンとわざとらしいウインクをしてやった。だけどその後、卯月が息が止まったような顔をしたので少し焦ったのだった。 雨宮卯月は腐男子である 第一部~完~

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