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第38話 その頃の南條先生について③

部屋散らかってるけど、とハードルを下げて、卯月を部屋に招き入れた。途中で逃げられないように鍵も閉めて、と……。 いや、別に閉じ込めてナニかしようとしてるわけじゃないからな。ただイイ雰囲気になったときに逃げられたら嫌なだけだから。先日化学準備室から逃げられたことがトラウマになってるんだよな。多分。 俺は目をキョロキョロさせながら所在無げに立ちつくしている卯月に気さくに声をかけた。 「適当に座ってて、コーヒーでいいか?インスタントだけど」 「あっ、はい。おかまいなく!」 卯月の緊張が伝わってくる。学校でもそうだけど、卯月はいつも俺に緊張している。 俺を好き故の態度ってのは分かるんだけど、もうちょっと楽に構えてくれないものか……ま、その辺は俺の努力というか、これからの関わり方次第か。 ケトルで湯を沸かしながら卯月の様子をちらりと観察すると、俺がソファーの上に脱ぎ散らかしていた部屋着を綺麗に畳んでくれていた。嫁かよぉぉ……!! 感動にうち震える心を鎮めながら、コーヒーをの卯月前に置きつつ、今気付いたように礼を言った。 「お、サンキュー」 「いえ」 「雨宮、服畳むの上手いな。俺苦手でさ」 というか、家事全般が苦手だ。一応料理はできるが、かなり適当だし。でも洗濯は洗濯機が乾燥までやってくれるし、掃除はルンバがしてくれるし、食洗機もあるし、ホントいい時代だよな。畳むのは仕方ないからやるけど……。 俺は畳まれた部屋着を受け取ると、寝室の方に持って行った。 そしてリビングに戻ると、卯月のぴったり横に腰を下ろした。 「!?!?」 卯月は俺の距離の詰め方にかなり驚いた顔をしている。三人掛けのソファだから俺が端に座ると思ったんだろう?そんなことするわけがない!ここをどこだと思ってんだ、俺んちだぞ。 つまり今、主導権は完全に俺にあるのだ!!はっはははぁ!! 「それで……俺に話ってなんだ?雨宮」 「あっ……と、その……!」 「ゆっくりでいいよ」 そう、ゆっくり……ゆっくりと俺への想いのたけを聞かせてくれ、卯月。一度に言ってしまったら勿体ないからな。 卯月はゆっくりとその小さな口を開く。こいつ鼻も口もちっちゃくて上品で可愛いな。思春期なのにニキビ一個無いし。肌のハリとかもやっぱり俺とは違うな……さすが10代。 「あ、あのですね」 「うん?」 びびらせないように、なるたけ優しい声色で返事をする。 「南條先生……あの、俺……」 「うん」 俺、このやりとりがあと10分続いても苦痛じゃねぇな。可愛すぎてずっと見ていたい。大人の余裕ってヤツだな。 そして、思ったよりも早く卯月は言った。 「南條先生……ずっと俺だけの先生でいてください!!」 うおおおお!!『好きです』じゃないけど、コレはこれでいいな!!『俺だけの先生』とかなんて可愛い独占欲なんだ!! 「ああ……雨宮、俺はずっとそのつもりだったぞ!!」 たまらん!と思いながら、俺は卯月をギュッと抱きしめた。あああ―――やっと抱きしめることができた―――!!何日ぶりだよ……まあ、車に乗せる時も抱きしめたけど。 すると。 「あ、あの待って下さい言い間違えました!!」 「ん?」 なんだと?言い間違え……?何をどう言い間違えると今みたいなのになるんだよ? 「南條先生、ずっと俺の攻め様でいてくださいっ!!」 同じじゃねぇか!! 「だから、そのつもりだって」 セメサマってのは未だによく分からないが、たぶん好きな人とかそういうニュアンスのものだろう。今ネットでもよくわかんねー若者言葉が蔓延してるもんな。俺はネットサーフィンとかあまりしないからよく分からないけど。 「い、いや俺のっていうか!俺のであって俺のじゃないけど、なんていうか……」 卯月は顔を真っ赤にして目をぐるぐる回して混乱している。何だ?そんな恥ずかしい意味の言葉なのか?セメサマってのは。もしや下ネタか?大歓迎だぞ。 「落ち着け、卯月」 「あ……」 あ、思わず素で名前で呼んじまった。別にいいよな、俺達は好き合ってる者同士なんだし。 それに名前で呼んだことで、卯月は幾分か落ち着いたようだった。よし、もうここらで一気に攻める!攻め落とす!! 言い間違いだとかセメサマだとかそんなことはどうでもいい、卯月の心を完全に俺のものにする!!いや、既に俺のものだけどちゃんと本人に認めさせる!! 「卯月、俺のこと……好きか?」 俺は、卯月が俺の顔と声に大層弱いことを知っている。なんてったってアイドル~。知っているからそれを最大限に利用する。 「言ってくれ、卯月……」 卯月は何故か今にも泣きだしそうな、切なげな表情をして、ゆっくりと零すように言った。 「……すき、です……」 すると、形のいい卯月の目にはどんどんと涙が溜まってきて……ゆるやかな流れの河が決壊したみたいに、ゆっくりと溢れ始めた。 そして、もう一度。 「俺……っ、南條先生が、好きです……」 ああ、やっと言ってくれた…。でも、なんでそんな号泣してんだ!?

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