拙者、また八代に抱きしめられてるし。 　やばい、この状態でまたキスとかされたら拙者のアレがあんなことになるかも……！！ 　すると八代は身体を離したと思ったら――拙者の腰に腕を回したまま完全には離れず、さらにとんでもないことを言いだした。 「ねえ永田くん、本当は君も俺のこと少しは好きだよね？」 「はあ！？拙者は貴様のことなんか全然、ぜんっぜん好きじゃないでござる！！そもそも男なんて――」 「ほんとうに？じゃあ、昨日は何で逃げたの？」 　八代は拙者のセリフに被せるように反論してきた。 　ぐう、イケメンは無意識に顔面を武器に使ってくるから本当に腹立つでござるな……！ 「いや、だからっ……その、貴様と一緒にいるのが苦痛だったから！」 「何で？どんなところが苦痛だった？」 「全部だそんなの！！む、無理矢理手を繋いできたりするし……！」 　すると拙者に対して、腐女子どもがヒソヒソと話をし始めた。 「普通さぁ、嫌なら振りほどくよね……」 「うん、秒で振りほどくか悲鳴あげるよね……」 「無理矢理繋がれたとか、むちゃくちゃいやらしくない……？」 「う、うるせーな腐女子ども！！最後妙なねつ造すんな！！それと、この野郎が意外と馬鹿力だから振りほどけなかったんでござるよ！！今も！！」 「八代先輩、馬鹿力なの……！？はわわわ体格差萌え～！！ヤバヤバイ～！！」 　雨宮氏まで……！ 　もう何を言ってもダメでござるなこいつら。知ってたけど。 「でも永田くん、俺の腕に痛いくらいしがみついてきたりしたよね？あれはどうして？」 「！！」 　そうだった……！リア充たちの巣窟に連れ込まれた恐怖でつい！ ああ、拙者は何たる失態を犯したのでござろう！恥ずか死ぬ！！ 「ちょ、今の聞きまして奥様！？自ら絡めてきただなんて、はしたない子！！」 「足？足の話なの！？足と腰なの！？」 「きゃーっ！歩く18禁ーっ！」 　お前らいい加減にしろと怒鳴ろうと思ったが、なんだか脱力してしまった。 　こいつらの脳内、本当に腐りきってるでござるな……(ツッコミ疲れてきた永田氏) 　八代にもいい加減に離れてもらいたいが、今手を離されたら拙者、倒れてしまう。(脱力してるから) 「要するに永田くんはさ、俺に嫉妬したんでしょ？」 「は？」 　しばらく静観してたと思ったら、いきなり何を言うでござるか、千歳シンジ！！ 「シンジ、どういうこと？」 「だからさ、せっかくのデートなのにシュートが俺に関係ある所にばっかり連れてくから永田君は嫌になって帰ったんじゃないの？昨日シュートからデートコースを聞いてそう思ったんだけど……ま、実際俺にはあんまり関係して無いんだけどね。インタビューで答えたレストランはモデル仲間に勧められただけだし、あのブランドの専属モデルはRIONだし。大体永田君、今日初めて俺の顔知ったみたいだし。RIONのポスターを見て俺だって勘違いしたんだろ？」 「ああ～なるほど！永田氏は八代先輩の影に千歳先輩が見えて、それで嫉妬して逃げたってことか！千歳神の考察力パねぇ！！新刊のネタにしよ！！」 「新刊？」 　千歳シンジの考察に、何故か雨宮氏が一番興奮していた。おいコラBL漫画のネタにすんな。 　それより、拙者が千歳シンジに嫉妬しただと……？そんなわけあるか！！ 　だってそんなのまるで、 　まるで…… 「そうなの？永田くん。じゃあきみ、やっぱり俺のこと」 「ちっがーう！！」 「すっごい分かりやすいけどな、永田君。さっきも俺にマジギレしてたし……って、もうこんな時間じゃん！俺、仕事だから行くよ。永田君、急に呼び出してごめんな！シュート、また明日話そ。他の子ももう外暗いから、気を付けて帰りなさいな」 　千歳シンジは軽快な足取りで、無駄にカッコよく階段を降りて行った。 　拙者たちにヒラヒラと手を振りながら。 ファンサービスまで完璧とか、本当に腹の立つ男でござるな……。 「千歳先輩、お仕事頑張ってください！！」 「来月も先輩が載ってる雑誌買います！ファンです！！」 「今度は是非モデルとして美術部に来てください！」 　な、なんだあいつら（腐女子三人組）……千歳シンジに対していきなり普通の女子みたいな態度取りやがって。今更遅いだろ！！ 「彼氏さんとの惚気ブログも楽しみにしてます！」 「ははっ、エッチな内容でもいいの？」 「是非ィィィ！！！」 　お前ら……マジで自重という言葉を知らないんでござるか？ 　特に雨宮氏。 「永田くん、」 「はっ。べ、別に拙者は千歳シンジに嫉妬なんかしてないから、勘違いすんな！！」 　まだ拙者の腰を掴んでいる八代が至近距離で見つめてきたから、思い切りそっぽを向いてそう言ってやった。つーか顔近っ！息がかかる！離せや！ 「ほんとうに？」 「本当でござる！！」 「ぜったいに？」 「絶対でござる！！」 「神に誓って？」 「か、神に！？いや、それはどうだろ……」 　果たして拙者、神に誓うほど千歳に嫉妬などしていないと言い切れるのか……！？ いや、言いきれる！言いきれるぞ！！ 　一瞬返事に迷っていたら、八代がくすぐったそうに笑った。 「あははっ！永田くんって正直者だよね……俺、君のそういうところが好きだよ」 「あっそ……」 「俺、絶対諦めないからね」 くそ、もう好きにしろ。 　なんかもう考えるの疲れたでござる……。 「あれ？永田くん！永田くーん！！雨宮くん、永田くんが返事しなくなっちゃったよ！？遠い目をしてるよ！？」 「あー、これは燃料切れですねぇ」 「燃料切れ！？」 そうそう、燃料切れ。 って拙者はロボットでござるかーッ！……はあ、ツッコむ気ももう起きない。 あまりのキャパオーバーで脳が疲れたから、進行は雨宮氏へお返しするでござる……。