八代は安定の馬鹿力で拙者の腕ごと強く抱きしめているから、抵抗など一つもできない。 　足場も段差があって安定してないから、蹴ることも不可能だ。 　八代はそんな拙者にお構い無しで、角度を変えながら何度も何度もキスしてきた。 「ンッ！ンンーッ！」 ちょっ……だから舌、入れるなっつうの―――！！ なんでこいつ、同じ高校生のくせにこんなっ……！！ い、イケメンだからか……！ 「分かってくれるまで、何回もキスするから」 「なっ……ンンッ！！はぁっ」 「永田くん好きだよ……好き……」 「ぷはぁっ、ンンーッ！」 　おいっ！おいっ！！八代！！ 「チュッ、チュッ……はあ、永田くん可愛いな……チュッ」 「おいシュート、一応突っ込むけどキスやめないと永田くんの答える隙が無くないかー？」 そう！それぇぇ！！ よくぞ突っ込んでくれた、千歳シンジ！！ 貴様のこと、少しだけ好きになったでござるぅぅ！！ 「あ、そっか」 「ぷはーっ！！ハァッ、ハァッ！こ、殺す気か貴様……！！」 　千歳シンジのツッコミにて、やっと拙者は八代のディープキスから解放された。 　酸欠で死ぬかと思った……。 　クソ腐女子とクソ腐男子は止めようともしねーで動画撮ってやがるし！！ 「永田くん、俺の気持ちが本気だってこと、いい加減に分かってくれた？」 「……わ……」 「え？」 「分かるかボケェェ――！！！いや分かったけど、分かったところで両想いになった気になるなこのセクハライケメン野郎ぉぉぉ！！！！」 　拙者は叫んだ。 　顔を真っ赤にして、腹の底から叫んだ。 　カラオケでも出したことのない声量だった。 「ええーっ！？」 「ははっ、確かに～」 　そして千歳シンジから強引にメガネを取り返すと、全速力でそこから逃げた。階段の途中にはスマホを構えた腐女子と腐男子の姿があった。 　ええい、全員邪魔でござる！！ 「永田氏！いいところでフレームアウトしないでよぉ！」 「八代先輩、早く永田氏を追っかけて！！あいつ足遅いから余裕だよ！！」 「足が遅いは余計だ！！」 　ああ、分かりたくなかった。 　奴の本当の気持ちなんか。 　そして、奴とのキスがそんなに嫌じゃなかった、自分の気持ちも。 「拙者はホモじゃないでござるぅぅ―――！！」 《ガシッ！》 「おわっ！？」 　何故か拙者は、再び八代に前方から捕まえ抱きしめられていた。 　え、なんで八代は拙者の前にいるんでござるか？瞬間移動したでござるか？ 　拙者の足が遅すぎて、いつの間にか追い越されてたでござるか？ 　そんな漫画みたいなことある！？！？ 　どうやら八代は、階段の手すりを飛び越えて拙者の前に飛び降りたらしかった。いくら運動神経抜群のサッカー部所属だとしても…… 「あ、危ねー奴でござるな！！怪我したらどうすっ……」 「永田くん、また捕まえた」 　至近距離で、しかも笑顔でそんなことを言われて、何故か心臓がぎゅんっとなった。 　は？なんだ今の……。 「くそッ、しつこいぞ貴様！離せ！！」 「やだよ、だって離したらまた逃げるでしょ？」 「当たり前だ！」 「俺、もっと永田くんと話したいよ。さっきは無理矢理キスしてごめん」 「……っ」 　そんな殊勝な態度を取られたら、許さないといけないような気になる……！ 　いやいや、騙されるな！拙者のファーストキスなんか全然重くないけど、セクハラは許したらダメでござる！！実はそこまで嫌じゃなかったとか、ちょっと気持ちよかったとか、そんなの絶対にありえないからぁぁ……！！