すると千歳シンジはふたたび眉間に皺を寄せ、今度は苦笑した。 「その自己評価は卑屈すぎやしない？永田君。それに頭っからシュートの気持ちを否定するのも、俺にはちょっと頂けないなあ」 「はぁ？貴様のような非の打ちどころのない人間を好きだった奴が、いきなり正反対の拙者を好きになるなんてどう考えても冗談にしか思えないだろ！」 　僻み根性丸出しというか、コンプレックス刺激されまくりというか……みっともないのなんて、自分でも痛いほど分かっている。――それでも。 「モブはモブなりに小さな幸せを見つけて、この世界の片隅で一生懸命生きてるのでござる。馬鹿にするな、ヒエラルキー最上級国民が」 　キラキラした奴は、キラキラした奴とだけ一緒に居ればいい。 　ただ、こっちを巻き込むな。 　拙者の幸せは、二次元にあるのだから……。 　そうだ、新しい二次嫁を探そう。 　そして八代のことはもう二度と考えないようにしよう。 　それが最善でござる。 「分かったらいい加減に腕を離せ、千歳シンジ！」 「あれ、永田君ってメガネ取ったら小動物みたいで可愛いな。メイク映えしそうだし、今度オレとも遊んでよ」 「んなっ！？」 　い、いつの間にかメガネを奪われているゥゥ！？ 　いかん！拙者のようなモブが千歳シンジを直視したら目が潰れる！！今までは瓶底メガネがあったから平気だったのだが……！！ 　拙者は千歳シンジを視界に入れないよう、ギュッと強く目を瞑った。 「それに小柄だけど胴体と足の長さのバランスはいいから、レディース服も着こなせそうだな、RIONみたいに。あ、お尻の形もいいなー」 「なななっ！何をするでござるかぁあ！？変態！！触るなぁー！！」 　千歳シンジにペタペタと身体中を触られている！！何故か尻も揉まれている！！ 　視力を奪われてるし、足元は階段だから迂闊に逃げられない！！ 　おいっそこで隠れてる連中！助けやがれ！！ 　ニヤニヤしながら見てるんじゃねぇぇ―――！！(※何故か分かる永田氏) 「あっ！」 ”あっ？” 　雨宮氏と思われる声が、やや遠くから聞こえた。 　そして、その次に聞こえた声は…… 「シンジ！こんな所で永田くんに何してるんだよ！！」 ……八代！？ な、なんでここにいるでござるか！？ 「あれ？シュート今、部活中じゃなかったっけ？」 「そんなことどうでもいいだろ！シンジ、永田くんを離せよ！」 「はいはい、離すからそんなに怒るなよ」 「おわっ！？」 　視力(※メガネ)を奪われたままいきなりパッと腕を離された拙者は、バランスを崩して階段から派手に転げ落ちた。 　……と思ったら、誰かに抱きとめられていた。 　いや、誰かって1人しかいないが……。 　でもそれが誰かなんて考えたくない。 　考えたくないから、目が開けられない。 　全身から冷や汗がダラダラ流れている。 　すると、抵抗しなかったためか更にぎゅうっときつく抱きしめられた。 「いやいやいや、離せよ！？助けてくれたのは有難いけど何どさくさに紛れて抱きしめてるでござるかァァ！？」 　やはり、拙者を抱き締めているのは八代だった。 　奴以外にはいねーでござるが。 「……離さない。離さないよ、永田くん！」 「何でだよ！？」 「きみのことが好きだから！俺の気持ちが本気だって分かってくれるまで、絶対に離すもんか！」 「はあ！？分かりたくねーよ、そんなもん！！」 「それってずっと抱きしめてて欲しいってこと？」 「なんっっでそうなる！？」 「それならそれで大歓迎だから！！」 　意味がわからん……！ 　八代が拙者のことを好きだなんて、誰が本気になんかするか！ 　 　あ、でも認めないならこのまま離さないって？ 　何でそこまでするでござるか！？ 　 「俺は本当に永田くんが好きだ……何で分かってくれないの？冗談なんかじゃないよ」 　こんなの、拙者のことを本気で好きだからとしか…… 　え？ 　拙者は思わず、目を開けてしまった。 　すると、空気清浄機人間こと八代の切なげな表情(かお)が、拙者の視界いっぱいに広がっていた。 「っ……！」 　それはあまりにも近すぎて、だんだんピントがずれて……最後には見えなくなった。 「ん！？」 　ふと、唇に濡れたような生暖かい感触がした。 　そして、完全に息が塞がれる。 　んんんんん！？ 「きゃーっ！キスしたああーっ！！」 「やばい！撮って撮って撮って！！」 「平凡受け最高ぉぉ！！八代先輩グッジョブゥゥ！！」 「ちょ、みんな静かにしてよ！！ムードぶち壊しだからァもお！！」 　遠くで腐女子＆腐男子の歓喜の悲鳴と、近くで千歳の『おお～』という感心したような声が聞こえた。それとパチパチと軽く手を叩く音。 　拍手すんなや千歳シンジ！！ 　……なんてことを冷静にツッコめたのは、0.00001秒くらいのホンの一瞬だった。 「ンンッ……はぁ……あむ……っ」 　拙者は八代に熱烈なキスをされていた……（パニックすぎて一周まわって冷静になった永田氏） 　もちろん、生涯誰ともする予定のなかったファーストキスでござる。 　ファーストキスで舌入れるか！？ふつう！ 　ああもう、ワケが分からんでござるぅぅ！！