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〈22〉イケメンVSオタク

 千歳シンジは、拙者を屋上に続く階段の踊り場まで連れてきた。この辺りは三年不良の溜まり場というイメージしかないので、真面目な拙者は近付いたこともない。  さぞかしタバコの吸い殻や落書き等で汚されているだろうと思っていたが、割とそうでもなかった。  というか、うちの学校にはそんな時代錯誤なヤンキーはいなかった。  この近辺だと、そういうのが生息しているのは西高ぐらいか?赤髪のモヒカン野郎を見たことがあるでござる。  などと考えていると、千歳シンジはなんとも優雅な仕草で階段に腰掛けて、拙者にも隣に座るよう促してきた。  拙者は二人分くらいの距離を空けて、千歳シンジの隣に座った。 「なんか飲み物でも買ってくればよかったなー」 「手短にお願いしたいのでござるけど」 「まあまあ、そう言わずに!」 「拙者に話とはいったい何でござるか?」  分厚いメガネでキラキラをシャットアウトしているとはいえ、やはり一般人とはオーラが違う。長時間一緒に居たら、拙者みたいなモブはこのキラメキに存在ごと消されてしまうのではないか……と本気で思うほど、千歳シンジという男のオーラは圧倒的だった。  南條先生も人並み外れた美形でござるが、腹黒いからなのか……いや、やはり芸能人ではないからオーラの種類が違う。  それに千歳シンジから溢れ出ているキラキラは、外見からだけのものではないようだ。顔も性格もいいイケメンとか、人類の敵でござるな。 「もちろん、シュートのことだけどさ」 「シュートって誰でござるか?」  一応質問しておく。  もし違ってたら拙者を呼び出したこと自体が間違いでござるからな。 「え?八代愁斗(しゅうと)だよ。昨日2人で遊びに行ったんだろ?」 「八代の下の名前、知らなかったでござる」 「それで、俺はシュートのダチなんだけど」 「それは知っている。でも、八代は貴方を友達とは思ってないようでござるが?」  拙者の言葉に、千歳シンジは目を丸くした。先輩を呼び捨てにしたのが気に食わないかもしれないが、そこは敢えてだ。  いつも一緒にいるという千歳シンジが奴の気持ちに気付いて無いわけがないでござろう?拙者の勝手な思い込みかもしれないが、知らないのならば教えてやる心積もりだ。  八代は千歳シンジに告白していないし、そうするつもりもないと言っていたが、ンなことは拙者の知ったこっちゃねーからな! 「八代は貴方のことを恋愛の意味で好きだと言っていた。だから友達だと思ってるのは貴方の方だけでござる。つまり、さっき拙者のことを『シュートの好きな永田君』と呼んでいたが、それは大いなる勘違いというわけだ。拙者は永田だけどな」 「えーっと……」 「昨日のことで八代に何か適当なことを吹き込まれたのだろうが、拙者は奴とは無関係だ。貴方が話をしなきゃならん相手は拙者じゃねーでござろう。キラキライケメン同士、顔でも腹でも割ってよく話し合え!巻き込まれてこっちは迷惑なんでござるよ!」  じゃ、もう拙者に用は無いでござるな。  そう言って去ろうとしたが、腕をグッと掴まれて立ち上がることが出来なかった。 「な、何でござるか?まだ何か……」 「話があるのはこっちなんだけど、まだ何も話してないよね?俺」 「だから、拙者は関係ないと言っている!」  拙者の言葉に、千歳シンジは眉間に皺を寄せてムッとした顔をした。  こんな顔までかっこいいとか、神様は人類になんちゅー差を付けてくれたでござるか。  この世に差別というものが無くならんわけだ。 「関係無くないよ。確かにシュートが最近まで俺のことを好きだったのは知ってる。けど、今シュートが好きなのは俺じゃなくてきみなんだよ」 「それが勘違いだと言ってるのに。大体、自分がそういう対象として好かれてることを知っててよく平気で友達ヅラ出来るな!そういうのは優しさじゃないと思うでござるよ」  どうでもいい……。  八代のことなんて、拙者にはどうでもいい筈なのに。    なのに、奴を可哀想だと思うなんて。  自分が奴のために、こんな偽善者ぶった気持ち悪いセリフを吐くなんて。  どうかしているぞ、永田隆星。  すると、千歳シンジは穏やかな口調で拙者に反論してきた。 「でも、それがシュートの望んだことだから。俺はシュートから直接好きだって言われてないし、言われたとしても俺には恋人がいるから気持ちには応えられない。シュートはそれを分かってて、それでも俺と友達でいることを選んだ。だから俺は何も知らない顔をしなきゃいけないし、今更俺の方から態度を変えることなんて出来ない。それこそアイツを傷付けるから。……残酷に見えるのかもしれないけど、そこはきみにも理解してほしい」 「う……」  完璧すぎる反論に、拙者はぐうのネも出ないでござる。 「それにシュートはもう俺のことそういう意味で好きじゃないよ。俺の恋人もそうなんだけど、人間って新しい恋をしたらさ、案外すぐに前好きだった奴のこと忘れられるみたい。ま、俺が必死で思い出させないように努力してるってのもあるんだけど!」 「へ?」  千歳シンジはこんな拙者に対して、ニカッと惜しげもなく笑った。  こんな並外れたイケメンでも、恋愛事で努力しているというのか……!?  たしか千歳シンジの恋人は一般人だと八代が言っていたが、ここまでさせるなんて一体どれ程の男なのだろう。少し気になるでござる。 「だからってわけじゃないけど、俺はこうやって余計な真似をして、シュートの新しい恋を応援したいと思ってるんだな。友達として」  千歳シンジの思惑は分かった。  しかし、何故そこで普通に『そう』思うのだろう。  少し考えれば、ありえないでござるのに。 「千歳……先輩。貴方は本当に、八代が拙者のことを好きだと思ってるのか?」 「ん?」 「ンなわけねーだろ!視力悪いのかよ!拙者のように地味でブサイクでキモい陰キャオタクがあんな爽やかイケメンサッカー野郎に好かれるなんて、罰ゲーム以外にありえないんだよ!!何でどいつもこいつもそんな簡単なことが分からない!?」  先輩にこんな態度を取って、もしかしたら生意気な奴だと殴られるかもしれない。  けどその方がよっぽどいい。堂々と被害者ヅラが出来るからな。   「えっと……」 「拙者は身の程を弁えているし、好きだと言われたところでホイホイとそれを真に受けるような勘違いもしない。昨日は不可抗力だったけど……」  昨日八代と一緒に出掛けてしまったのは、単に奴の強引な誘いを断る暇が無かっただけだ。すっぽかすのは、人としてアレだと思うし……。

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