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虎、馬る。②
人差し指がするりと、てっぺんに触る。ふるりと、体が震える。息が熱くなる。ジンジンが心臓の拍動と同じリズムを刻む。
「ダメ?」
啓太の声が、鼓膜を震わせる。それは吐息を含んでいて耳殻を擽って首筋を粟立たせる。
「嫌だった?」
啓太の声は潜められると一層甘くなるんだと知った。その声で、もっと、もっと何か言って欲しい。教えて欲しい。応えて欲しい。
ーーー好きだって、言って欲しい。
きゅぅって、胸が、狭くなる。強請ることなんておこがましくてできない。できないけど。
「好きだ」
密やかに、注ぎ込むように言われた言葉に、瞼が開く。
鼻の奥、つんとする。
「う、わ、」
「え、え?なに?」
急に目の中の水位が上がって動揺した。目の前が一気にぼやけた。
なんで、なんでなんで。
声に出していない言葉まで、伝わっちゃうんだろう。
言葉にできないのに。わかってしまうんだろう。
「なんでも、ないです。なんでもないんです」
溢れそうになったのを慌てて拭って、焦ってる啓太の頭を両腕で抱いた。
「好きです、俺も、好きです」
ああ、好きでいていいんだ。
自分を曝けても、好きだと、言ってくれるんだ。
あり得ないと思っていた幸せと以心伝心が、ちゃんと自分にも用意されていたんだ。
「あの、俺も、先輩の、見たい、です。だから、」
心音がまた上昇する。でも、多分、素直な言葉を口にしても、ちゃんと。
「ん、そういう約束だもんな」
少しはにかみながら笑って応える声がする。少し体を離して、自分から啓太の唇に自分の唇を重ねてみた。乾いていると思ってた唇はちょっと湿ってて、そう言えばさっきまでエロいキスをしてたんだって思い出したら、また少し恥ずかしくなった。
「俺が出す?」
言いながら頬に指先が触れる。その指がさっきまで、自分の乳首に触れていたと思うと、あのぞくぞくでまた体が震えた。
「いや、おれ、」
俺も、
「俺が、シテもいいですか」
触ってみたい。
見るだけじゃなくて、触ってみたい。
先輩に触られて自分のが膨らんで、変わってしまったみたいに、先輩も、変わるんだろうか。あの、屋上のときみたいに。あるいは、それより、もっと、はっきりと。
溜飲の音がした。
真っ赤な顔の先輩が眞澄を見ていた。
「あ、の、」
釣られていっそう顔が熱くなる。
「いや、うん、判った。」
先輩の大きな掌が口許を覆っている。照れた顔を隠すしぐさ。体が離れてキャスタに捻れる。引き出しを開けて、取り出されたもの。
「直で触んの、抵抗あるだろ?」
逸らされた目線のまま差し出されたコンドーム。
ビニルの小さな四角を目の前に当惑する。
「どうやって、つければいいですか……?」
あまりに無知な自分が恥ずかしくなるけど、啓太が差し出してきたと言うことは、啓太はその使い方を知っていると言うことなのだろう。
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