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第1話 六番の掃除当番

 鳥飼宰人(とりかいさいと)。サイコロ人間。  四季の折々に、彼はいつもサイコロを振る。そして、その出た目でテストを解いたり、出た目の数字の人とだけ会話をする。誰とでもそんな適当な対応をする、異常な人間だ。  彼とは一度、掃除当番で一緒になった。その時に、彼はサイコロで六を出した。  頭取弥勒(とうどりみろく)という名前である僕は、名前に”ロク”という数字があるため、必然的に彼と掃除当番をやる羽目になった。 「はあ、なんで僕があいつと……」  正直乗り気じゃなかった。サイコロなんかで全てを決めてしまうような人と関わりたくはなかった。  それでも先生の圧力がかかって、結局のところ断れない僕は、鳥飼宰人と一緒に、中庭の掃除をやることになった。箒を持って、散らばる葉っぱを掻き集めているけど、風が強く、集めても集めても風に葉がとばされてしまう。それにイライラとするけれど、更に何もせずぼうっと空を眺める鳥飼宰人にもイライラしてしまう。  僕は思わず彼に声をかけていた。 「ねえ、ちょっと。少しはちゃんと掃除してよ」 「あ、ああ、ごめん。空があんまりに綺麗だったから見惚れてた」  はあ?! 空?!  僕も彼と同様に空を眺めてみるけれど、何にも綺麗だとかそんな感情は沸いてこなかった。空は空であって、その外でもない。ただ、僕らの上に存在して見下ろす空を、疎ましく思うことはあったけれど、彼みたいな感性は生憎持ち合わせていないため、彼が何を言っているのか全く理解しがたかった。  僕の注意もほどほどに、彼はやっと掃除をしてくれるようだ。  ゆっくりと葉っぱが飛んでいかないように確実に箒で集める。彼の掃除の仕方を見て、僕も真似て掃除をしてみる。さっきまであちらこちらに飛んでしまった葉っぱが一か所に集めることができた。 「クスッ」  鳥飼宰人に笑われた。僕は何か可笑しなことをしただろうか。不愉快だった。勝手に笑われて、良い気なんて起きない。  僕はこれ以上鳥飼宰人と目を合わすことなく、掃除の時間が終わるまで、黙々と作業を進めた。  チャイムが鳴って、一通り掃除も終わり、後は帰るだけだと思っていたら、鳥飼宰人が僕の前に立ちふさがる。何なんだ、こいつは。何がしたいんだ。僕は無視して、彼の横を素通りしようとしたら、勢いよくどんっと壁に追いやられた。 「痛いなあ、何するんだよ」  堅い壁にぶつかり、背中を痛める。  ずんっと端正な顔が近づき、鳥飼宰人との距離が縮まる。僕は何か痛いことでもされるのではないかと思い、目を瞑ってみたが、何にもそんなことは起きなかった。それよりも、ふんわりと柔らかく頭を触られた。 「付いてる」  そう言って、頭に付いていた数枚の葉っぱを取ってくれる。  そういうことは言葉にして伝えてくれればいいものの、そんな突進してくるような勢いで僕を引き留めなくてもいい。真剣に葉っぱを一枚ずつ確実に取ってくれている。鳥飼宰人の顔が間近にあって、思わず彼の顔をじっと見つめてしまう。きりっとした凛々しい瞳が僕の頭の上にある葉を見ている。くるんと巻かれた天パの頭が頬に当たってくすぐったい。最後の一枚を取り終えると、ふっと力が抜けたように彼は微笑んだ。   「なっ!」 「ん?どうかしたか?綺麗に取れたぞ」  一瞬微笑んだかと思うと、またいつものような無表情な顔に戻る。  見たこともない鳥飼宰人の笑顔に、僕はドキドキした。彼でもこんな人らしく笑えるんだと思った。  いつもサイコロのことしか頭になく、何を考えているのか分からない彼だが、彼も僕たちと同じように笑える存在であると知った。しかし、最後に僕のことをこんな風に呼ぶものだから、僕は今まで以上に彼に対して、警戒心を抱くことになった。 「さて帰るか、ロク番」 「ぼ、僕は頭取弥勒だ! 数字で呼ぶな!」 「む、そうか。すまんな」  その日以来、鳥飼宰人は、ロクの数字は出さなかったため、僕と鳥飼宰人の関わりはそれまでだった。

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