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第1章 巫子と守人(もりびと)ー1
『これは創世のお話。
世界はまだ、天も地もなく。ただひたすら、光を拒む濃い暗闇に包まれていた。
そこに現れたのは銀の瞳を持つ―ヨイハヤ―と呼ばれる男神と、金の瞳を持つ―ヒムカヤ―と呼ばれる女神であった。
女神はただ真っ暗な世界を嘆き、そこに大地を創ることに決めた。
男神は、女神のためならば、とそれに協力することにした。
まず、二人は互いの指先から滴らせた血と、互いの髪を一房ずつ切り混ぜ合わせ。そうして、大地と空を造り上げた。
次に、女神はその出来たばかりの地に降り立ち、渇いた地面に息を吹き掛けた。すると、大地にはみるみるうちに花や草木が生い茂り、樹木が生えた。
男神は女神の創り出した美しきその緑の光景に心揺さぶられ、歓喜の涙を零した。すると、地面に落ちた男神の涙はみるみるうちに大地を潤し、幾本もの清らかな流れを生み出した。やがて清らかな流れは一所に集まり、そうして大海が出来上がった。
そうして創り上げられた大地には、美しき風景や豊かな自然はあれど、男神と女神以外の生命はまだ存在していなかった。それから三日三晩待ち続けたが、一向に生き物が誕生する気配がない。
そこで考えた女神は、大地を照らすものを創ることにした。
女神は自身の金色の瞳を片方抉り取り、そうして天へと放り投げた。すると、女神の金色の瞳は眩いばかりの光を溢れさせ、大地全てを照らす太陽となった。
男神も、女神がそうしたように銀色の瞳を片方抉り出し、天へと放り投げた。すると、明るかった天は忽ち濃紺へと染まり、空へと放り投げられた男神の瞳は優しき銀色の光を大地に降らせる月となり、太陽がその身を休めるために眠りについている間だけ空に浮かぶようになった。
そうして、しばらくして大地には草木を餌とする虫や小さな動物達が生まれ、その虫や動物達を餌とする肉食獣や魚達が生まれた。しかし、女神や男神のように言葉を話し、二つの足で立って歩く生き物は何時まで経っても生まれてくることはなかった。
そこで、女神は自身の肋骨を一本抜き取り、その骨に男神の唾液と血肉をくっ付けたところ、漸く女神に似たものが生まれた。女神はこれを“人”と呼んだ。
女神に似た人一人だけでは寂しかろうと、今度は男神の肋骨を一本抜き取り、そこに女神の唾液と血肉をくっ付けて男神に似た姿を持つ“人”を生み出した。
大地や空、人を創りすっかり疲れ果ててしまった男神はその身を癒すために深く暗い海の底で眠りについてしまった。女神も同じく疲れ果てた身体を癒すために高く大きな山を創りあげ、その奥深くで眠りについてしまった。
これが、この世界の創世のお話』
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