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第29話 未来の糸(4)
土曜日の午後。授業が終わった後、俺とヤス、そして佐合さんの三人で昇降口を出て、校門へと向かう。俺たち同様、帰宅する連中でごった返していた。
「今日の午後はデートってか」
「いいなぁ」
二人が顔を見合わせて、ウフフと笑う。
「そういうお前らだって、これからデートだろっ」
ちょっとだけ恥ずかしく思ったせいで、声が少し大きくなる。そのせいで、校門へ向かう他の生徒たちの視線が自分たちに向いてしまった。
「もう、要、声デカい」
「デートじゃなくて、一緒に塾の見学に行くの」
元々、佐合さんが通ってた学習塾に、ヤスも一度、見学しに行くというのだ。ヤス自体、自分の学力にあった大学に進学するつもりだったみたいだけど、できるだけ確実に、ということで、佐合さんの説得もあってか、試しに行ってみることにしたのだという。実際は勉強どころじゃないんじゃないの? なんて意地悪なことも考えてみる。でも、佐合さんが許さないかな、とも思った。
俺たちがワイワイ話しながら校門に着くころ、そこには、普段着姿の柊翔がニコニコしながら俺たちの方を見て立っていた。
……まぁ、嫌になるくらいカッコいいよね。
大学二年ってこともあるのか、高校の制服着ている俺たちなんかよりも大人びてるし。柊翔の姿を見て、遠巻きにキャァキャァ言ってる女子もあちこちにいるし。柊翔に気付いた三年らしき男子生徒数人が挨拶してる。剣道部のヤツかもしれない。柊翔もびっくりした顔で話してる。
「ごめん、待たせた?」
別に、ヤキモチ妬いたわけじゃないけど、話している途中でも、つい、声をかけてしまう。ヤスと佐合さんは、わかりやすいくらいニヤニヤしてる。
「いや、ちょっと前に着いたとこ。ヤスくん、佐合さん、久しぶり」
俺が声をかけたタイミングで、話してたた男子生徒たち挨拶だけして離れていき、柊翔は優しい笑顔で俺たちに話しかけてきた。
「お久しぶりです!」
「こんにちわ」
校門のところで立ち話というわけにもいかず、俺たちはゆっくりと駅の方へと歩き出す。ヤスたちがこれから塾の見学に行く、という話をすると、俺をのぞく三人で塾に関する話題で一頻り盛り上がった。そんな三人の様子に、俺もなんだか楽しくなる。
「ところで、今日はどこにデートに行くんです?」
興味津々に聞いてきたのはヤス。俺も行先を知らなかったので、チラリと柊翔へと目を向ける。
「デート? ああ、まぁ、デートといえばデートか」
苦笑いしながら答える柊翔に、俺の方が困惑する。俺の方が勝手にそう思ってただけ?
「あれ? 違うんですか? 要くん、楽しみにしてたのに」
ちょっとだけ怒ったように佐合さんが、文句を言う。
「ごめん、ごめん。要を連れて行きたいところがあるんだ。ついでに、知り合いに紹介したくてね」
「知り合い?」
「ああ、高校の時の同級生なんだけどな」
話をしているうちに駅に着いてしまう。そのまま改札の中に入ると、俺たちは下り電車、ヤスたちは上り電車のホームへと別れた。
これからどこへ向かい、誰に会うというのか。ほんの少しだけ、不安になった。
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