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第28話 未来の糸(3)

 正直、こんなどうしようもない俺のことを、おばさんは呆れたかもしれない。それでも、いつもと変わらずにいてくれたおばさん。もう、感謝するしかない。  そして、面談のあった週の金曜日の夜、柊翔がわざわざ帰って来た。 「要、明日の午後、時間あるか?」  自分の荷物を客間に置いて早々、元々柊翔の部屋だった、今の俺の部屋に顔を出す。  柊翔と顔を合わせるのは春休み以来。久しぶりに見る柊翔は、髪が短くさっぱりしていて、なんだかちょっとだけ大人びたような気がする。 「おい、大丈夫か?」  課題をやっていたのも忘れ、つい、ぼーっと見惚れてしまってたせいで、返事をするのが遅れた。 「え、あ、うん」 「何々、ああ、英語か」 「うん」  机に座ってる俺の背後から、教科書を覗き込む柊翔。微かにミントっぽい匂いに、少しだけ汗の匂い。それが懐かしくも、キュンと胸を締め付ける。  俺も教科書に目を落とすと、柊翔が体重をかけてきて、ギュウッと俺を抱きしめた。 「く、苦しいよ」 「我慢しろ、ちょっと充電中なんだから」 「じゅ、充電って」 「うるさくしてると、母さんが来るだろ」 「……もうっ」  完全に自分の顔が茹ってる自覚がある。真っ赤になってる俺の耳を柊翔が、唇で甘く食んだ。 「やっ!?」  びくんっと跳ねた身体を、柊翔がさらに力を込めて抱きしめて、耳元でクスクスと笑う。そんなに俺の反応が楽しいのか、と思うと、ちょっとだけ悔しい。俺の頬に柊翔の頬が撫でつけられる。お互いに暑いって感じてるはずなのに、離れられない。胸がドキドキしてるのは、俺なのか、柊翔なのか。近すぎてわからなくなる。教科書の文字が全然頭に入って来ない。 「要」 「ん?」  返事をした瞬間、俺の頬にキスが落ちる。 「え?」  そのまま柊翔の身体が離れて、大きな手が俺の頭をぐりぐりと撫でまわす。その絶妙な力具合を嬉しく感じるけど、ちょっと物足りない。欲しいのは、もっと違うもの。 「そろそろ、飯だってよ」 「あ、う、うん」  そんなことを想ってる自分が恥ずかしかったけど、柊翔は気づいてないだろう。部屋から出ようとした柊翔の後をついていこうとした時、急に柊翔が振り向いた。思いっきり、目が合ってビックリする。目線よりちょっと上くらいということに気付く。俺も背が伸びたってことか。  チュッ 「うえっ!?」 「色気ねぇなぁ」  いきなりキスされたら、変な声も出る! それでも柊翔は嬉しそうに笑ってる。なんか、そういう余裕こいてるのって、ムカつく。 「うううっ!」 「あんまり可愛い顔すると、襲うぞ?」  そんなことできないくせに。さすがに、柊翔の実家でそんなこと出来ないって、俺だってわかってる。欲求不満にさせてるヤツに言われたくない。無意識に自分が強請った顔になってるってわかってる。柊翔が困った顔をしたのは一瞬。   「……要」  ゆっくりと顔が近づいて、今度は本当にちゃんとしたキスをくれるはずが。 『柊翔~、要く~ん、ご飯~』  本当に、おばさん、狙ったように声をかけてくる。今度は俺の方が困った顔になって、「は~い」と返事を返して、すぐ。  チュッ 「仕返しですっ」  ドアを開けて廊下に出る。背後で柊翔がしゃがみ込んだようだったけど、俺はそんな柊翔を残して部屋を出たのだった。

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