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第27話 未来の糸(2)

 案の定、俺の言葉を信じてないのか、大きくため息をつかれてしまう。 「そんなに、信用ないのかしら」 「な、何言ってるんですか」  寂しそうな声でポツリと言われ、慌てて顔をあげる。目の前には、眉毛を八の字にして、悲しそうな顔のおばさん。 「おばさんねぇ、柊翔に頼まれてたの。そのうち、要くんから、面談の話がくるかもしれないって」  柊翔め、余計なことを。俺は内心、舌打ちをしたかった。でも、おばさんを目の前にして、そんなことができるわけもない。 「……すみません」 「それだけ、まだ、信用されてないってことなんでしょうけど。さすがに、あなたのお母さんの貴子さんみたいにっていうわけにはいかないかもしれないけど、おばさんも心配してるのよ」  じーっと見つめてくる視線に、俺は顔をあげることもできない。それこそ、申し訳なさ過ぎて、泣きそうだ。俺は、再び、テーブルの方へと視線を落とす。 「で、面談は?」 「……今日、もう終わりました」  俺の言葉に、おばさんは大きくため息をつく。 「まぁ、終わっちゃったのなら仕方がないけど、これからはちゃんと話をしてね」 「でも」 「でもじゃないでしょ。『はい』でしょ」 「……」 「今日だって、一応、獅子倉さんが気にして来てくださったのよ」  その言葉に、俺は一気に潤んできた涙が引っ込んだ。さっきの湯呑とかは、そういうことだったのか。誰があいつに連絡したのか、何人かの顔が浮かぶけど、結論は出ない。  ただ、ニアミスしそうだったことに気付いて、顔が一気に強張る。 「あの人も、まだ、悩んでらっしゃるのよ。だから、もう一度ちゃんと」 「ごめんなさい。そういう話だったら、俺、聞きたくないんで」 「ちょっと、要くん」  俺はバッグを手にすると、おばさんの声を無視して、部屋に向かう。俺の勢いに、おばさんは呆れたのか、追いかけても来なかった。  なんだって、あいつが来るんだ。いいかげん、俺のことなど、放っておいてくれればいいのに。チビのほうにかまけてれば、いいじゃないか。自分の生活だけ、考えてればいいじゃないか。  部屋に入ると、俺はバッグを床に放り投げ、制服の上着を椅子にひっかけて、そのままベッドにダイブする。もう、ここは俺のベッドになっていて、柊翔の匂いは残ってない。俺は大きな枕をギュッと抱きしめる。 「柊翔……」  涙は出ない。だけど、胸の中が苦しい。この感情をどう吐き出して、どう昇華したらいいのか。 ――早く大人になって、自分の力で生きなきゃいけない。  柊翔との未来図が、どんどん霞んでいく。会えない時間が、愛を育てるなんて、嘘だ。このまま、俺たちの気持ちは、現実に削られて、消えていってしまうんじゃないか。  俺は枕に大きく息を吐きだして、まるで胎児のように丸くなる。苛立ちを抱えたまま、俺は壁をジッと睨みつけ続けた。

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