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第26話 未来の糸(1)

 結局、三者面談は俺一人で先生と話をすることにした。親父とは話をしたくもなかったし、だからといって、お世話になっている鴻上のおばさんに来てもらうのも筋が違う気がした。結局は俺の人生なわけで、どうするかなんて、自分で決めるしかないんだ、と思っていた。  実際に一人で教室に入ると、担任にはかなり渋い顔をされた。その上、進学ではなく就職の方向で考えている話をすると、余計に眉間の皺が増えてしまった。  そもそも、うちの高校は進学校ということもあって、就職実績はあまりないのだと、俺も知っていたことをくどくどと説明された。俺の成績自体はそれほど悪いわけでもなく、進学しないのはもったいない、という。それに、うちの学校に来る求人情報も多くはないこともあって、もう少しよく考えろ、と言われてしまった。予想してたことではあったけど、教室を出る時には、始まる前の気負いはどこかに失せて、むしろ、「やる気って何?」と言いたくなるくらい無気力になっていた。  学校からの帰りの電車の中、一人でドアによりかかりながら外の景色を見る。いつもより早い時間のせいで、車内は学生の姿は多くなかった。  担任の言葉を思い出して、つい、大きなため息をついてしまった。あまりにも、自分の生き方が思うようにならないことに、苛立ちを感じてしまう。早く、高校を卒業して、自分の力で生活しなくては、と、ジリジリとした焦りを感じた。  家に帰ると、おばさんの「おかえり~」という元気な声が聞こえてくる。 「ただいま~」 「要くん、ちょっといい?」  そのまま部屋に行こうとしたところ、台所からおばさんに呼ばれた。 「はい?」  ダイニングテーブルの上には、誰かお客さんが来ていたのか、来客用の湯呑と和菓子か何かを食べた後の皿が残っていた。 「そこ座って」 「え、はい」  俺はおばさんの言う通り、鞄を足元に置くと、素直に椅子に座る。そして、おばさんはテーブルの上を片付けると、俺の向かい側に座った。 「要くん、おばさんに言うことない?」  ぽっちゃりとした顔でじっと見つめるその目力に、俺はフイッと目を逸らしてしまう。これじゃ、何か疚しいことがあるって、バレバレだ。それでも俺は何事もなかったように、薄っすらと笑みを浮かべておばさんに顔を向ける。 「特には」 「……あのねぇ。うちには柊翔っていう息子がいたのよ。高校三年生のこの時期、何があるかなんて、予想できると思わない?」 「……なんのことだか」  淡々と話すおばさんに気圧されて、今度はテーブルの上に視線を落としてしまう。ヤバイ。なぜだか完全にバレてる気がする。

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