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「――そんなの、俺が許さない」
噛み付くようなキスだった。涙の、悲しい味がした。
「んぅっ、ん、ふっ、ふぁ、」
頬に濡れた髪が張り付く。薄く開いた唇から、熱い舌が入ってくる。火傷してしまいそうだった。
掴まれた手首がジリジリと熱を孕み、心臓がバクバクと音を立てる。
――ぼく、かざりさんときすしてるんだ。
頭で理解して、止めないといけないのに、口内を蹂躙する舌を噛んで拒否することができない。
上顎をなぞられると背筋が痺れた。歯型を辿られるともどかしかった。舌先が絡み合い、どちらとも知れぬ唾液が口の端を伝った。
ず、じゅる、と足元で揺れる冷えた水音に混じって、恥ずかしい音がする。
「んン、ぁ、ざり、さんっ、いき、ぁっ」
唇が離されて、顎先を、首筋を辿って、ぢうぅと胸の芽に吸い付かれる。
ぼく、おんなのこじゃないのにっ
羞恥に顔を赤くして、でも拒否できなくて、緩く押さえつけられた手が宙を掻く。
歯で軽く噛まれると、甘い響きが伝った。
ん、ん、と鼻にかかった声がもれるのを我慢できない。胸で、感じないはずなのに。
膝が震えて、冷えてしまった湯船の中にざぶんと崩れ落ちた。沈んでしまわないように、抱きすくめられてそのままキスをする。
焦燥と、恋情が混ざりあって、しょっぱいキスだった。こんなに悲しいキスがあるだろうか。こんなに、甘いキスは初めてだった。
「っぁ、あ、か、かざりさんっ」
「紅葉っ、好きだッ」
無意識に、両腕で神原の頭を抱きしめる。濡れた指先に髪が絡んだ。衣服が濡れるのも厭わず、強く、強く紅葉を抱きしめる神原は熱く滾った感情を瞳に孕んで、「抱きたい」と囁いた。
吐息が耳を掠めていく。
熱にドロドロに溶けてしまいそうだった。いっそ、溶けて、混じりあって、一緒になってしまいたかった。
拒否したのに。駄目だって言ったのに。この人はそんなの関係なく飛び越えて、いつも紅葉が欲しい言葉をくれるんだ。
「かざりさんが、好きです、でも、ぼくは、どうしたらいいかわからないんです、」
「……セックスするの、怖い?」
「風璃さんとなら、怖くない」
フルフルと振った頭から水滴がポツポツ滴った。
日に焼けたことの無いような白く薄い胸。唇は真っ青だけど、目元は涙が滲んで赤らんでいる。
浮いたあばらを指先でなぞるとビクンと肩が震えた。
「俺と、エッチしよう」
耳元で囁かれた言葉に、紅葉は頷いてしまった。
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