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小噺②
*兄弟事情*
「え、副会長って双子なの?」
「イタリアに留学中ですけどね。僕と正反対の女(ひと)ですよ」
仕事の合間の休憩中、話題は自然とそれぞれの家族構成についてになった。
お茶請けの準備係は宮代なのだが、毎回持ってくるお茶請けが双子の姉から送られてくるものだということから、話題はどんどん広がっていく。
「……でも意外ッスね。女兄弟多そうだとは思ってたけど、双子とは思いませんでした」
「まぁ、二卵性だから似ていないけどね」
私が母似で双子の姉は父似なんだ、と宮代。
デスクからスマホをとり、保存されている家族写真を見せてくれたのだが驚くほど似ていなかった。
双子を真ん中に、左右に父母が写っており、柔らかい微笑を浮かべる宮代と母親は歳の離れた姉弟でも通じそうなくらいそっくりで、難しそうな表情でムスッと写る姉と父親もそっくりだったが、柔和な宮代と硬質的な姉は全くと言っていいほど似ていなかった。遠い親戚と言われた方が納得できそうなものだ。
じっと画像を食い入るように見つめていると、苦笑しながらすぐにしまわれてしまう。
「あっまだ見てるのにぃ!」
「だって、白乃瀬が惚れたら困るじゃないですか」
思わずぽかんと間抜け面を晒した。
「こいつシスコンだからな」
声をかけてきた神宮寺は一人掛けのソファーに悠然と座り、スマホの画面を見つめる幼馴染みを呆れた目で見る。
幼馴染みと言うこともあり、付き合わされてきた宮代のシスコンぶりには辟易としている様子だった。
「いいじゃないですか。シスコン万歳ですよ。本当ならここの姉妹校の女子校に通うはずだったんですよ? あぁ……あの子が変な虫に絡まれてないか不安で不安で夜も眠れません……」
「そういうわりには毎日ぐっすりだけどな」
「それは神宮寺が毎晩毎晩……いえ、なんでもないです」
「ふぅん? 俺が毎晩毎晩なんだよ?」
「なんでもないですってば!」
シスコン話から突然イチャつきはじめたバカップルに顔をしかめ、喉の奥に広がった甘さを流してしまおうと紅茶を口に含んだ。
隣に座った新田も同じような表情をしているのに苦笑を浮かべる。
「うわぁー……副会長の意外な一面を知っちゃった感じ……」
「生徒会室でイチャつかないでほしい……」
「どうかーん。あ、じゃぁ僕達もイチャつくぅ?」
「それだけは勘弁です」
「はぁ? 僕が不満なわけぇ?」
「俺、風紀委員長を敵に回したくないんで……」
予想外な名前が出てきたことに苦い表情をしてしまった。神原から告白されたことは学園中に広まっていることだったが、当人の白乃瀬は頑なに違うと言って訳も説明せずに神原を避けているのだ。
「……会長は男兄弟ばっかなんだっけ?」
「あ、話逸らされた」と新田は溜め息を吐く。
今の今までその会話をしていましたと言わんばかりの切り替えに、流石だと言わざるを得ない。
「逆に驚きだよねぇ。会長って一人っ子って感じだしぃ」
「あー」と白乃瀬に納得する声を上げる宮代と新田は、微笑ましいものを見る顔つきで神宮寺を見た。
「っんだよその反応!」
「だって、会長がお兄ちゃんしてるとことか全然想像できないんだもん」
「……言っとくが、俺は末っ子だからな」
「納得」
「だから新田お前、俺に対する反応がおかしいだろ!」
じいっと神宮寺を見ていた新田がひとつ頷く。
今でこそ男らしく精悍な顔立ちである神宮寺だが、子供の頃はそれはそれは可愛らしく愛らしい美少女であったらしく、男ばかりの兄弟の中でも母親に甘やかされて育ったらしい。
その反面、父がとても厳しかったと聞くが、やはり父も甘かったとかなんとか。
自分の子供の頃の話になりそうなのを咳払いで誤魔化した神宮寺は白乃瀬へと視線を流した。
「俺は白乃瀬が気になるな」
「おや、浮気かい雅人?」
「ち、違うぞ雪乃!? ただ白乃瀬の家族構成が謎だから気になっただけで!」
にっこりとする宮代にたじたじの神宮寺。亭主関白なカップルかと思ったがどうやらがかかあ天下だった。
宮代もわざと責め立てているみたいでその表情は生き生きとしている。仲は至って良好のようだ。
「しっ、白乃瀬! それでお前の家族構成を教えやがれ!」
不遜な口調のわりには余裕がいっぱいいっぱいの神宮寺に溢れる笑いが隠せずにいれば睨まれてしまった。
「兄兄姉俺弟弟弟」
「えっ」
「え?」
少しの沈黙の後、ポツリと新田が呟く。
「白乃瀬センパイに弟ってひとりじゃありませんでしたか……?」
「あー……それがさぁ、こないだ家に帰ったじゃん? そったら弟が増えてたんだよねぇ……しかも双子! ちょー驚きじゃない!? もぉー大お祖母様ったらどっから連れてきたのかしらないけどぉ」
揃い子は厄の象徴であるとか言ってたくせに。ぶちぶちぐちぐちと文句を連ねる白乃瀬に、ハッとした宮代が疑問を投げかける。新田は首を傾げているし、神宮寺は神宮寺で眉根を寄せて考え事だ。
「血、繋がってないんですか……?」
「あれ、言ってないっけ? 実質的に血が繋がってんのは三つ子の長男だけよぉ?」
他所が思っているほど、『白乃瀬』の業は浅くない。口に出して言えないことだって平気で行われているし、お家繁栄の為ならどんなことだってする。本当の裏で行われていることなんて、意外と知られていないものだ。
三つ子は末女が二卵生、長男も次男が一卵性で父親がそれぞれ違うし、一つ下の弟は腹違いで、新しい双子の弟たちは下の弟の母親と他所の男の間に生まれた子供。白乃瀬とちゃんと血の繋がった兄弟は唯一の紅一点である三つ子の長女しかいない。
「白乃瀬家ヤバくないっスか」
「うふふ、ヤバイねぇ。相当」
(結論:白乃瀬家ヤバイ)
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