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小噺①

*生徒会補佐と風紀委員会*  生徒会室の大きな窓から雨に濡れた世界が見える。  後期に入ってから生徒会役員の三年生に気に入られてしまった紅葉は、生徒会会計補佐(仮)として書類を提出するために風紀室を訪れていた。 「失礼しまぁす。生徒会の書類出しに来ましたぁ」  綺麗な蜂蜜色の髪を揺らし、普段と変わらない様子で風紀室へと足を踏み入れた紅葉を迎えたのは風紀委員達のキツい眼差し。驚いて足を止めれば、物凄く嫌そうな顔をした風紀委員が近付いてくる。ネクタイの色が青だから、二年生だ。  風紀室にやってくるのは二度目になる。一度は被害者としてやってきた時は入学してまもなくだったが、そのときのここはとてもアットホームな雰囲気をしていたものでなんというか、親の敵でも見るみたいな視線に臆してしまった。 「生徒会が風紀室に一体何の用だい」 「え? えーっと、十二月にある交流パーティーの書類を提出に来たんですけどぉ……」  だんだんと語尾が小さくなってしまう紅葉を他所に、風紀委員達はざわざわと落ち着きをなくしていく。  風紀に何かされたらすぐに連絡しなさい、と生徒会の先輩は言っていたが別の意味で連絡を、助けを呼びたかった。奇妙なものを見るような目で見られ、居心地の悪い雰囲気に今すぐにでも逃げ出したい気持ちだ。  誰でもいいからこの場から助けてくれないだろうか。脳内を違うところにトリップさせたとしても現状が変わるわけでもない。  訝しげな表情でこちらを見てくる風紀委員に、いっそのこと書類を投げ渡してとっとと帰ってしまおうと思い始め、溜め息混じりに言葉を紡いだ。 「あの、書類受け取ってもらえないんですかぁ?」 「……おかしな企みをしてるんじゃないだろうな」 「はぁ?」 「生徒会の奴等が大人しく期限前に書類を提出するなんて考えられない」  何か裏があるんだろう、と聞いてくる彼は難しいことを考えているような表情だ。ふと紅葉は友人から聞いた噂話を思い出した。  今期の生徒会と風紀委員会は、歴代で最悪の仲である。そのときはまだ生徒会に属しておらず、適当に聞き流していたが、身をもって体験してみればなるほどと納得してしまった。  一言で言えば、面倒臭い、だった。何かある度にいがみ合っててて疲れないのだろうか。 「……じゃあもうなんでもいいですよー。書類ここに置いとくんで」  近くのデスクに置いてもよかったのだが、委員が座って作業をしており邪魔をするのも憚られ、応接スペースだろうソファーに囲まれた木目のテーブルに書類を置いた。  よし、と満足感に一つ頷いた紅葉は目を丸くする風紀委員の横をすり抜けて部屋を後にするため扉へと手をかける。 「白乃瀬」  ドアノブを回して風紀室を出ていくのよりも早く、呼び止める声がした。 「あー? って、青空じゃん。風紀委員だったんだ?」 「それ、いまさら? ……てか四方津(よもづ)先輩邪魔」 「はぁ!? おま、先輩になんて」 「はいはぁい、ヨモちゃんがいくら白ちゃんのことが好きだからってそんな目付きで見つめてたら白ちゃんが泣いちゃうデショ」 「神原テメェ!!」 「四方津先輩ツンデレですもんね」  奥の扉から出てきたのは数少ない顔見知りで、一気に賑やかになった室内に目を瞬かせる。  風紀副委員長の神原と、クラスメイトの青空はすぐ紅葉に気づいて声をかけてきたようだった。直接的な繋がりのある二人が現れたことに安心してホッと頬を緩ませた。 「神原先輩、こんにちはぁ」 「ん、やっほー白ちゃん。また襲われたノ?」 「ちっがいますー! お使いで来たんですー! ほら、そこの書類! てか、長居しても邪魔になるだろうし、僕もう行きますねぇ」  命の恩人、と言うよりも貞操の恩人である神原にはとても感謝しているが、マイペースで独特の雰囲気を纏う彼が紅葉はいまいち得意てはなかった。変わり者揃いと言われている風紀委員の中でも特に我が強いのは神原だと思っている。容姿しかり、性格しかり。  慌てて出ていった紅葉に、クスクスと笑いを漏らす神原は両脇から強い視線を受けて更に笑みを深めた。 「副委員長のせいで白乃瀬帰っちゃったじゃん」 「えー? 俺のせいなのー? むしろヨモちゃんのせいじゃなーい? 苛めてたし」 「苛めてねぇよ!」 「四方津先輩はただのツンデレだから仕方ない」 「青空お前まじで口の利き方気を付けろよ……」 (紅葉くんが生徒会入ったばっかの頃。内側はどうかわからないけど外面はいいのでもっぱらお使い係)

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