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 ちゃぽん、と湿った水音が響く。高い天井に広い湯船。白い湯気が漂い、紅葉はほっと息を吐き出して肩まで湯に浸かった。  ひのきの香りのする湯船は一日の疲れを癒してくれるようだ。 「ふわぁ……」  あくびと共に気の抜けた声が溢れる。いつも冷水ばかりに浸かっているから、お湯に浸かると溶けてしまいそうだ。  シャワーだけでいいと言ったのに、半ば無理やり温泉に入れられたが、これは良かったかもしれない。  ひのきで作られた湯船は、足を延ばして入ってもまだ余裕があり、こだわって作られているのが見てわかった。  ガラ、と擦り戸を開けて入ってきた風璃は、とろけてふわふわしている様子に苦笑いする。 「湯加減はどう?」 「きもちぃーですよぉ」  森の香りの入浴剤がまた気持ちをリラックスさせてくれる。 「頑なに湯船は嫌だって言うから、てっきり風呂が嫌いなんだと思ってたよ」 「やぁ、あったかいのに慣れちゃったら大変じゃないですかぁ」  何が大変? と首を傾げる風璃には答えず、ぬくぬくとひのき風呂を楽しむ。 「ちょっと詰めて」と、詰めなくても余裕のある湯に風璃も入ると、ざぷんとお湯が溢れていった。 「わぁ、もったいない」 「俺に入るなって?」 「そんなこと言ってないじゃないですかぁ。ていうか、風璃さんとこうして一緒にお風呂に入るとも思ってなかったし」  きっと、実家にいればこうして湯に浸かることはない。  神と溶け合い、身を清め祓い水と共に在れ――と常日頃から水が身近にある環境を強いられる。  湯に浸かるなんて言語道断。大祖母にバレたら大目玉を喰らうこと間違いなしだろう。 「俺はもっと紅葉君とこうしたいなァ」  にぃんまり、口元を笑みに歪めた風璃に頬が引き攣る。広い湯船なのに、だんだんと距離を詰められる。  後ろに手をついて、仰け反る体を指先が伝う。湯の中だから、触れる感覚がくすぐったい。 「の、のぼせちゃうって」 「そしたら看病してあげるよ」  窓の外は暗い。屋敷内も静まり返り、、ちょっと大きな音がしても、この広い屋敷内じゃ誰も気づかないだろう。  ぱしゃん、と手のひらで水面を叩いてしまい、水が大きく跳ねる。それに気を取られているうちに、風璃の綺麗な顔が目の前に迫って、かぷり、と唇を食べられてしまった。 「ん、ぅん」  反響する声に、ぐっと喉奥が詰まる。  声を我慢すれば、それを咎めるように胸の先を強く抓まれた。

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