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 舞台裏に入れば宮代の声が飛んでくる。  相変わらず生徒会室に来ないし会議には参加しないしでどうしたものかと困っていたのだが、サボることなく来てくれたようだ。  ほっと安堵の息を吐き出す。  開会式の司会は宮代、ゲームのルール説明が紅葉、激励の言葉を神宮寺、そしてなによりも大切な歓迎会中の注意事項を神原、その他の説明を一澄が行う。  今朝の段階では、ルール説明の前に理事長挨拶が入っていたのだが急遽出張が入ってしまい、宮代が代理で読むことになったのだ。 『新入生歓迎会開催式を行います。綾瀬川理事長は急遽出張が入ってしまい――』  マイク越しの声に舞台裏で耳を澄ませていれば、新田が静かに隣に並んだ。 「あの、センパイたち、なんかあったんすか?」 「どの先輩よー? 先輩はたぁくさんいるよぉ」 「……神宮寺センパイと、宮代センパイです」  酷く言いにくそうに紡がれた言葉に内心舌を巻いた。  この後輩、存外勘が鋭い。 神原の第六感とはまた違い、人をよく見ているというか、見ていないと気づかないことにいつもよく気がつくのだ。気づかなくてもいいことにまで気がつくのだから厄介な物に違いはない。  英国に行き、おそらくまだ日之太陽(ひのたいよう)と出会っておらず存在を知らない新田にとって、生徒会を率いる二人の違和感にはどうしても居心地が悪くなるのだろう。――と紅葉は思ったのだが、新田が言っているのはそういうことではないと言う。 「いや、なんか痴話喧嘩したとか、そういうのなんですけど」 「新田君の言ってることがちょっとよくわかんなぁい」 「あの二人、夫婦みたいだったじゃないですか」  そうなの? と首を傾げた紅葉に失礼ながらも呆れた眼差しを投げてくる。 「痴話喧嘩してる夫婦みたいなピリピリした雰囲気してたから」 「いや、僕そんな新田君みたいに人間観察趣味にしてないからよくわかんないし」 「……なんで俺の趣味が、人間観察だって知ってんですか」  見開かれたタレ目を見つめ、紅葉は口元に人差し指を当てた。 「なーいしょ」  ぱちん、とウインク付きで。  出番が近づいてきた紅葉はルール説明の台本に目を通し始める。 「人間観察十分してんじゃないですか……」  隣から聞こえてきた言葉には笑ってごまかしておいた。

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