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016
――埃臭さに目を覚ました。
「おはよ、会計様」
「……だ、れ……」
いまだにはっきりしない頭に苛立ち、声の聞こえたほうを向く。
茶髪の生徒がひとり、それしかわからなかった。かけていた筈のメガネはなく、薄暗い室内で視界はすこぶる悪い。
「はじめまして~。会計様をヤッちゃう俺でーす」
「……は、?」
「にしても、会計様ってめちゃくちゃ美人っすね! メガネかけていた時はカッコイいイケメンって感じだったけど、俺は美人な会計様のほうが好きだなー」
「な、ぇ、……?」
「あれ、まだ薬抜けてない?」
ペラペラと喋るものだから、働かない頭は状況整理どころではなく、一歩一歩ゆっくりだが近づいてくる見知らぬ生徒に恐怖心を抱かせた。
なぜだか悪い予感がして、体を無理やり起こし、覚束ない手足でじりじりと後退する。
「えー。なんで下がんの。俺と楽しいことしましょーよ」
「……意味が、わからないんだけどなぁ?」
「会計様のことを捕まえることができたのはホント偶然なんスよ。綺麗な感じのやつ捕まえてヤレればよかったんですけどね」
「や、るって…」
「もしかして下役はじめて? だったら優しくしてあげますよ~。会計様の親衛隊って可愛い系のネコちゃんばっかりだし、掘られてないッスよね?」
脳内が恐怖心で埋め尽くされる。
――――
「……っ、ひっ」
「声抑えんなよ、萎えんじゃん」
ジャージを乱雑に捲られ、胸の飾りをいじられる。乾燥した指先が乳首をつまみ、こねくり回して、簡単に固く芯を持ってツンと天井を向いたそれはいじられ過ぎてジンジンと熱を持った。気持ちよくなんてない。男なのに胸を弄られる情けなさともどかしさと、羞恥心で思考が焼き切れそうだ。
抵抗しようにも、手慣れた様子で両手首をネクタイで縛られ、古ぼけた机の足に繋がれてしまっては身動きひとつ取れなかった。
「や、やめ、……っ」
「ん~……なぁんか、なぁ……?」
感じたことのない感覚に、生理的に涙が浮かんだ。
「会計様がおっぱいで感じないってのはよぉくわかったんだけどさぁ……」
さんざん弄られ熱を持った先端をピン、と指先で弾かれ、自分の物とは思えない、女みたいな声が零れる。
「会計様ってさ、親衛隊とヤったことあるんじゃなかったの……この反応は、まるっきり初心者なんだけど」
「ふぇ……ぅ、うぁ…」
「泣き顔の会計様かっわいー……じゃなくて、会計様、ヤったことないの?」
顔をズイと近づけられ、情けないけど涙を流しながら何度も頷いた。もしかしたら、止めてくれるんじゃないかという希望に縋って。
頬を赤く火照らせ、胸を上下に息を乱し、口の端からは飲み込みきれなかった唾液が零れる。きわどいところまでずり下がったズボンと、捲られた上着の間で泳ぐ白い腹。腰骨が浮いて、肉付きの悪い体は、細すぎて心配になるほど華奢である。今の自分自身が、どれほどまでに色香を放っているのか、紅葉は理解していないのだろう。
ごく、と生徒が喉を鳴らした。
「ふぅん」
「…っ、ぁ、あ、……! …んんっ!!」
胸をいじっていた手の動きが止まり、気を取られた瞬間、噛みつくようなキスをされた。
唇の間から舌を入れようとしてくる。必死に口を閉じて抵抗するけれど、それも限界。
息が続かなくて、胸を叩くけどそんなの意味を成さなかった。薄く開いてしまった唇、その隙を見逃す筈もなくて、舌が滑り込んできた。
「んっ!? んん、ぁっ…ふぁあ、」
「エッロ……。会計様、タチよりネコちゃんのが合ってると思いますよー?」
「やっ……ぃ、」
「ははっ、ちょー優越感。いっつもへらへら笑って、いつか泣かせたいなぁと思ってたんだ」
妖しい笑みがさらに紅葉の恐怖を煽り、そして相手の加虐心を煽ってしまった。
「……っエロすぎ。そんな反応されるとトコトン苛めたくなっちゃうじゃん」
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