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 さながら気分は研究者に捕まった宇宙人。  右手は水嶋、左手は強姦されそうな窮地を救った美少年基桜宮都(さくらみやみやこ)に握られている。  ざわざわとする食堂への道を歩きながら、どうやってこの状況を打破しようかと紅葉は思案した。  さらさらの黒髪に綺麗なアーモンド型の瞳は上品な猫を連想させる。水嶋とはまた違った系統の見目麗しい美少年だが、その実、中身はただのタチの悪い悪魔だ。  三年の綺麗所である水嶋と、一年の綺麗所の桜宮を両脇に侍らせ「両手に花だ」と手放しに喜べればよかったのだが、その内側は綺麗な花とはかけ離れているせいか素直に喜べないのが現状。  常であれば癒やし要員の水嶋もピリピリと嫌な雰囲気をまとっているものだから居心地が悪くて仕方ない。我らが会計親衛隊隊長様の機嫌が悪い理由はわかっている。先日の新入生歓迎会の際の強姦未遂事件と、左手を握りしめる美少年・桜宮都と接触してしまったこと二点であろう。 「誰それとはなるべく接触をしないように」と忠告はするものの決して制限はしない水嶋が珍しく、「絶対接触を避けてね」と眦を釣り上げキツく言いつけていた白乃瀬親衛隊副隊長との接触。  頑なに拒否して自身の師ね痛いであるにも関わらず副隊長の名前すらも教えない徹底ぶり。多生徒にかん口令すら敷いているものだから、いつしか諦めていたのだがつい先ほど桜宮自身が白乃瀬紅葉親衛隊だと告げたことにより発覚した。  歓迎会時は桜宮が副隊長だと知らなかった。しかしながら、桜宮を中学生の頃から知っていた分、すんなりと納得できた。桜宮は中学同級生の内の弟で、何かと慕ってくれる可愛い後輩だ。この桜宮兄弟は揃って執着的というか粘着質というか、とにかくしつこくて面倒くさい印象である。  今年に入り、副隊長が変わったのは耳にしていたがそれが一年生で、しかも知り合いの弟だとは思いもしなかった。  それ以前に桜宮(おとうと)がこの学園に入学していたことすら紅葉にしてみれば予想外なのだ。 「桜宮君、あまりそうやって白乃瀬君にくっつかないでくれる?」 「えーなんでですかせんぱーい。紅葉さんも嫌がってないしいいじゃないですかー」 「その『紅葉さん』っていうのもやめてほしいんだよね。副隊長として自覚が足りないんじゃない? 白乃瀬君は優しいから言えないの。それぐらい考えればわかるでしょ?」  挟んで行われる静かで冷たい戦争に冷や汗が流れる。  本格的にどうにかならないかと笑顔を振り撒くが周りの生徒は見惚れたのち、左右の二人に青ざめるのだ。救いの手は望めない。  水嶋も桜宮もカンペキで美しい笑顔なのに見た者に恐怖を覚えさせる。  案外この二人は似た者同士の気がするけれど、これを口に出した瞬間集中砲火をくらいそうだ。そんな自殺めいたマネはしたくない。  口論しながらも息はピッタリで、無駄に豪奢な両開きの扉が同じタイミングで開かれる。食堂内はちょうどお昼どきで賑わっていた。 「白乃瀬様だ……」 「ほんとだ、食堂にいらっしゃるなんて珍しい」 「ていうかちょっと……両脇にいるの」  紅葉がやってきたことでざわめきが一層増すがどうにもいつもよりざわめきが大きい。  水嶋がいるからだろうかと首を傾げ、隣にいる桜宮を見て自己完結した。  手を引かれたままどこか座れる席はないかなーと首を巡らせるが、込み入ってくる時間帯ということもありどこも満席だ。  身内話になるのはわかりきっている。できればテーブル席にしたかったのだがそう都合よくテーブルも空いてない。二階の役員席ならスカスカなのだが、あいにくと親衛隊含む一般生徒は上がってはいけない決まりとなっている。普段キャーキャー(野太い)騒がれる生徒のための配慮、なのだそうだ。 「下で食べるんですか?」 「うん。聞きたいことあるし、先輩も僕に聞きたいこと、ありますよねぇー?」 「よくわかったね。……というわけで桜宮君はどっか行ってくれる?」 「はぁ? ふざけてんですかー?」  黒い、笑顔が黒い。  犬にでもやるようにしっしっと手を払う水嶋にこれまた黒い微笑で舌を打った桜宮。今にもキャットファイトが開催されそうだ。

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