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これまでのお話-01
『これまでのお話を皐月くんに語ってもらいます』
『彼氏』って呼んでいいのかな?
そんなこと本人に言ったら、すごい勢いで否定されそう。とりあえず彼氏設定で始めるか。
俺の彼氏はめちゃくちゃ美人で色っぽくて、器量好しで、男気があって、そのうえめちゃくちゃ可愛い。
華奢な体は抱きしめたらぴったり俺の腕におさまって、可愛いのに見た目は超クール。おまけに性格も喋ることもクール。なのにとにかく可愛いのだ。
さらさらの黒髪に切れ長の目、俺なんかと違って作りが全部繊細で、桜色の唇が動くだけで見惚れてしまう。
『えー、その辺の説明はもういいので、始めて下さい』
え!奏衣の魅力については二十四時間語れる自信があるんですけど。
『それはまたの機会にお願いします』
まぁ後ほどたっぷり時間をかけて奏衣の魅力については語るとして…
俺は中学から高校までのエスカレーター式名門男子校、星丘学園の高校入試にまぐれで受かり、運命の人に出会った。
それが俺の彼氏、上原奏衣 。
高校三年間まるごと、俺は奏衣に片思いしてた。「奏衣」だなんて、呼べるようになったのもごく最近のこと。それもぎりぎり卒業式の日、初めて奏衣の心に触れて(一応そんなような気がして)今につなげることが出来た。
もしかしたら、その日が最後になったかも知れない。
星丘学園は県内一の学力レベルを誇る私立校で、高校から星丘へ入るやつはほぼ全員半端なく努力家で勉強ができる。
これを言うと都会の人は驚くけれど、田舎の高校受験は公立一校、私立一校のみ。なんて理由から普通に考えて合格確実なところしか狙わず、合格率は九十五から八、九パーセントという超低倍率。
じゃあどうせなら一番の星丘学園を狙ってやろうじゃないかと思った俺は、ほとんどの生徒がエスカレーター式に中学から上がってくるという事実を見落とすほどの馬鹿だった。
結果オーライ。
今でこそ身長はほぼ百八十センチ、奏衣よりも大きいけれど、入学当初は学年で一番小さくて「中学生だろ〜」とからかわれる対象になった。
中学までの俺ならそんなこと笑い飛ばせたのに、学力面で最低レベルという事実が余計に自分を卑屈にさせていた。ぶかぶかの制服を着て、笑われて、それだけのことをどうしようもできないことにさらに打ちのめされ、入学したことを後悔し始めていた時、奏衣に出会った。
「そんなことでからかうの、どっちが中学生だよ」
そう言った奏衣の目が北欧の湖みたいに冷たくて綺麗で(北欧なんて行ったことないけど)目を奪われた。
わざわざという感じのない、ただ思ったから溢れた言葉。何をどうしようという気もない。
後から知ったが、ひとつ年上の先輩。すらっとバランスのいい体型はもっと大人っぽかった。
「つまんないことに振り回されんな」
俺に向けられた目は、同じ日本人の茶色い瞳なのに、透き通っているかのように見えた。意思も感情も見せない。かっこつけても、先輩風を吹かせてもいない。ただ人の、生 の美しさというようなものを初めて見たと思った。
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