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これまでのお話-02

 さらに畳み掛けるように、舞い散る桜の下、当時つきあっていた同級生とキスしている奏衣を偶然見かけた。  そう、いつも奏衣ばかり目で追っていて、奏衣がつき合っているのが男だと知ってしまった。ふたりが交わすさりげないコンタクトで。彼だけに向けられる特別な視線で。  ストーカーしていたわけじゃない。キスを目撃したのは偶然だ。もちろん偶然。  奏衣からは、綺麗なんて言葉じゃ収まらない、色気がこぼれ、滴り落ちていた。  細める目がどれだけ開いているか、首を傾ける角度が何度か、乱れた髪がどちらを向いているか、長い睫毛がどれだけ震えたか。手はどこにおかれているか、ふたりの距離は平均何センチか。  完璧過ぎて、吐きそうになった。  これを狙ってできたら、どれだけの完璧主義者か。全く狙わずやっているのなら、どれだけ…言葉が見つからない。それくらいの衝撃。  いつか奏衣と対等に話すことが出来たら、そんな自分になりたい。そう思っているうちに持ち前の楽観主義的適当さが有効活用されてきて、からかわれることはなくなった。  見たい。会いたい。話したい。そう思っているうちに、奏衣は姿を消した。  奏衣とつきあっていた境先輩は、部活を引退するまで奏衣がいなくなった窓を時々見上げていた。  俺はすぐ隣のテニスコートから、手を振る奏衣を見ていたからどれほどふたりが親密だったか知っている。表情なんて見えないほど遠いのに、奏衣は凛とした空気を纏っていた。同時にひどく柔らかな、無防備な、潔癖なほどのまっすぐさで、彼を見ていた。  そんな奏衣を見ていたくて、見るほど胸が灼けた。  なんてひとりぐるぐるしていただけで、一ミリも奏衣に近づけず、会えなくなった失望は大きかった。どんどん背が伸びて、他校の女の子たちと近づく機会がないわけではなかったけれど、奏衣を忘れられなかった。  一年半後、三年の教室に、奏衣がいたのは奇跡だった。  この人何してたのかと思えば、失恋を癒すためロンドンに留学していたらしい。県で一番の進学校を離れようと思えば、留学しか方法を思いつかなかったというのは理解できる。  でもそれを飛び越えられる奏衣をすごいと思った。俺なんて生まれてこのかた高校卒業まで地元を離れたことがない。高校生になっても『JR』さえ乗ったことがないくらい。それほど辺鄙なところを越えて行く奏衣の身軽さをまた、強く美しいと思った。  もう絶対に後悔はしない、奏衣に近づきたい。そう思って毎日毎日話しかけてたんですけどね。  まさかの、「誰おまえ?」  この冷たい目、知ってる。  受験で自由登校になる期間を考えれば時間は残されていない。同じことを繰り返したくはない。 「皐月先輩、俺とつきあってよ」  奏衣はそんな言葉で簡単には落ちない。それはもちろん想定内。でも、こちらを向いて欲しかった。 「俺、知ってるよ。境先輩とつきあってたでしょ?」 「脅すつもり?」 「そう取ってくれてもいいけど?」 『これまでの話が長すぎるので、まきでお願いします』  はいはいはいはい!わかりました!

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