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これまでのお話-03

 とにかく強引につきまとった。とにかく嫌がられてへこんだ。でもへこんでる時間さえ勿体無くて、常に強気で、常にふざけた調子で、常に特別扱いをして奏衣に迫った。キスもした!  軽くあしらわれながらも、だんだん「しょうがねーなー」って感じになってきて、卒業式の日には「ヤらせてやってもいい」と言わせた。でも心には触れられなかった。  好きな男にキスをして舞い上がるような気持ちだったけれど、同時に苦しかった。だって、桜の下で見た顔とは全然違ってたから。表情も、温度も、仕草も。  ここまで来られたのも信じられないような奇跡の積み重ねだって知ってる。  でも、苦しい。本当は好きだと言えないまま「しょうがないから別にキスくらいしてもいいけど。大したことじゃないし」って感じの奏衣に、付け入るようなやり方で欲望を叶えても、ダメージも重なっていく。  近づいたようで、奏衣は俺を全然見ようとしない。俺のことを考えようとも、覚えようともしない。  強引に触れる度、それは思い知らされる。拒絶する熱量さえ、持ってもらえないということを。  で、最後の最後、瀕死の告白をして、おつきあいするに至る。やっぱ最後は誠意ですね。  あー、まとめた!なんか最後の方すっ飛ばしてるけど。そんな感じ!  奏衣には「え?俺たちつきあってんの?」って言われそうなんだけど、まぁ常にそんなバランス関係。それでもよし!  東京の大学に進学した奏衣を追いかけて、俺は予備校通い。  ど田舎から花開いた奏衣が大学デビューなんてことにならないかやきもきしつつ(まぁロンドンでもデビューしているのでその辺はちょっぴりしか心配していない。見た目を裏切って真面目と言うか、クールすぎ)予備校の寮で高校の時とは違う、いろんな奴らに揉まれて人生模索中プラス盛大に受験勉強中。 『はい、ありがとうございましたー』  この前、デートもしたよ。勉強は大事だけど、奏衣に会えなきゃ意味がない。会えばパワーがチャージされる。 「寮の部屋って風呂ないんだ」  地元にはないおしゃれカフェで驚きの寮情報(寮ごとに偏差値が売り、予備校のハイクラスしか入寮できない寮がある、受験学部もしくは大学で入寮可能な寮が決まっている、なんていう諸々)をネタ混じりに奏衣に喋っていると、ふと声色の温度が下がった。  食いつくのそこか!なんて思いながら、笑いを堪える。 「心配しなくても、他の男の裸とか興味ないから。奏衣だけだから。裸見たいのは」 「キモいこと言うな。心配なんてしてないし!」 「各部屋に風呂ある寮もあるけど、家賃重視で選んだから、うちは大風呂、トイレ、洗濯機共同」  しれっとした表情で何を考えているのか。想像するだけで楽しい。 「今日、奏衣んち泊まりに行こうかな。一緒に風呂入りたいっていうリクエストもらったんで」 「は?誰がそんなこと言った?試験勉強の前に、頭の翻訳機能メンテナンスした方がいいんじゃないの?」 「俺、夕飯作るよ、何食べたい?」そう聞けば「ふわふわ卵のオムライス、玉ねぎ少なめで」なんて可愛い答えが返ってくる。  だめだ!!!!可愛い!!!!好き過ぎる!!!! 『で、やっと、卒業式当日へ巻き戻ります。皐月くんに任せると話が進まないので、奏衣視点に戻ります!皐月くんの話が本当なのか、詳しくは本編『春に立つ風』をどうぞ!』

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