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雨と熱

残業が終わり会社を出ようとすると、雨。 ……持ってきててよかった。 鞄から折りたたみの傘を出し、さして会社を出る。 雨は本降り。 道に跳ねる雨脚が、スラックスの裾を濡らすほど。 そんな雨の夜、少し先の、もう閉まっている洋菓子店の軒先に少し前に帰ったはずの人影を見つけ、足を止めた。 「……なに、やってんの?」 「えへへ」 困ったように笑うヒロに少し腹が立つ。 びしょびしょになってるスーツ。 傘もなし。 「傘は?」 「あー、女の子が傘忘れて困っててさ。 押しつけて飛び出したまではよかったんだけど、この雨だとコンビニまでが遠くて。 ここで雨宿り」 “女の子”。 ヒロの口から出た言葉に、少しだけずきんと胸が痛んだ。 ……せっかく今朝、午後から雨だからと傘を押しつけたのに。 女に押しつけた? そうですね、君は女の子、好きだから。

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