「あの傘、結構お気に入りだったんだけど」 「ごめん。 今度一緒に新しい傘、買いに行こう」 ……すぐにあやまる。 あやまれば許してもらえるとでも思ってるの？ 「別にいいし。 ほら、帰るよ」 「いいのか？」 「いいもなにも。 僕が置いて帰ったらどうするの？ 明日の朝まで雨やまないって予報なのに」 「……ごめん」 またあやまってきたヒロにイライラして、さっさと歩き出す。 そんな僕にヒロは慌てて傘に入ってきた。 「機嫌直せよ。 メシ、食って帰ろう？」 「うっさい、莫迦。 奢りなら許してやる」 「いいよ、それで」 へらへら笑ってるヒロにはぁっと小さくため息。 雨に濡れないようにしてるふうを装って、ヒロに身体をすり寄せる。 雨の匂いに混じって香るコロンの香りを、心を落ち着けるように吸い込んだ。 「折りたたみだと小さいもんな」 「そうだね」 ……僕の気持ちなんか知らない癖に、笑っているヒロにやっぱり腹が立つ。 僕がどんだけ努力して、普通の顔して同居なんてしているのか、ヒロは知らない。 思えば君は、女の子の気持ちには敏感な癖に、僕の気持ちだけには鈍感で。 まあ、だから、気付かれることもなくいままで一緒にやってこれたのもあるけれど。