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12 モデル 1
「タロ、今日の散歩は川の方に行ってもいいか?
桜並木の絵を描くことになったんだけど、写真だけではなんか感じがつかめなくてさ。
まだ花は咲いてないけど、実際の桜並木を見てこようかなと思って」
「ワン!」
「ん、ありがとな。
あと買い物はどうする?
今日行くか?」
タロが変身できるのは2日か3日に1回なので、タロが変身できる日に合わせて買い物に行くようにしている。
タロが変身した時に必要なものをメモしてもらっておいて、次に変身出来そうな日にそれを持って買い物に行くのだが、ここしばらくは予定外の変身が続いていたせいで、一週間以上も前のメモがまだ冷蔵庫に貼られたままになっていた。
「ワン!」
「お、今日変身出来そうか?
しばらくタロのご飯食べられてなかったから楽しみだなあ」
「ワン!」
期待しててください!とでも言いたそうな元気なタロの鳴き声が頼もしい。
本当はご飯の他にも楽しみなことはあるけど、とりあえずそれは黙っておくことにして、タロと一緒に散歩へと出かけた。
――――――――――――――――
「うん。やっぱりこの木は桜だったな」
タロと一緒に何度か来たことのある川沿いの道は、水面におおいかぶさるように川の両岸に桜の木が植わっている。
ただし今はまだ冬なので、花の気配もない。
正直俺の目には桜なのか他の木なのか区別がついていないが、「ソメイヨシノ」という木札がかかっているから間違いないだろう。
「お前は去年の春はまだ小さかったはずだし、桜の花の実物は見たことがないかな?
花が咲いたら、また一緒に来ような。
これだけたくさんあると、きっと一面ピンク色ですごいぞ」
タロに話しかけながら、階段に座ってスケッチブックを開く。
タロも俺の足にぴったりとくっついてお座りをして、スケッチブックをのぞき込んでくる。
今は花が咲いていなくても、別の場所で撮った桜並木の写真を見たばかりなので、春になったらここがどんなふうになるかは想像できる。
この川に桜吹雪が舞う景色を思い浮かべ、それをスケッチブックに描いていく。
そしてほとんど無意識のうちに、その中に犬のタロと大人サイズの人間のタロを描き入れていた。
おっと、人間のタロは子供サイズの方がウケがいいかな?
けどせっかくだから、今のタロを描きたい気もするんだよなあ。
あ、それと子犬のタロが桜の花びらと戯れてる絵も描こう。
あと今のタロが花吹雪の中、キリッとした顔でたたずんでいる姿も。
やはり花が咲いていなくても、来てみて良かったようだ。
実際の桜並木を見ていると、次々にイメージがわいてくる。
絵のすみに思いついたことをメモしてから、俺はスケッチブックを閉じてカバンにしまった。
「お待たせ。
おかげでいいイメージがわいたよ。
さて、それじゃ買い物して帰るか」
「ワン!」
そうして俺たちは立ち上がり、いつもの商店街へと足を向けた。
――――――――――――――――
「ご主人様!」
買い物を済ませて家に帰り、タロの足を拭いてやると、タロはすぐに人間に変身して、ぶつかりそうな勢いで俺に抱きついてきた。
「おー、タロ〜」
俺もタロをぎゅっと抱き返してやると、タロは俺の腕の中でえへへと笑った。
「あ、お買い物ありがとうございました。
久しぶりだから腕によりをかけて作りますね!」
「うん、楽しみにしてるよ。
っていうか、やっぱ俺も手伝う。
タロと一緒にいたいし」
「はい! じゃあお願いします」
そうして俺たちは並んで台所に立って料理を始めた。
とはいうものの、俺の大ざっぱな料理よりもタロの料理の方がおいしいのはわかっているので、俺はタロの助手に徹することにする。
二人で楽しく話をしながら晩ご飯を作り、作ったそれを二人で食べる。
これまで何度も繰り返してきたことだけれど、タロと恋人同士になった今では、いつもよりもさらに楽しく感じられる。
「あー、ごちそうさま。
今日もおいしかったよ。ありがとな」
「どういたしまして」
「あ、そうだ。
片付け終わったらまたモデルやってくれるか?」
「はい、わかりました」
食事の後にモデルを頼むのはよくあることなので、タロは気楽そうに返事をしたが、続く俺の言葉に固まってしまった。
「今日はヌード――裸で頼みたいから、二階でやろうか」
「えっ!」
ヌードと聞いたタロは驚いた表情で固まり、その後じわじわと頬を赤く染めた。
「やっぱりヌードはまだ恥ずかしいか?
タロが嫌なら今日はやめておくけど」
「……いえ、大丈夫です、やります。
僕、ご主人様にやるって約束しましたし」
タロは赤い顔をしつつも、しっかりとうなずいてくれる。
タロのこういう思い切りがいいところも好きだなと俺は思う。
「じゃあ、二階に上がる前に風呂も済ませておこう。
あ、よかったら一緒に入るか?
タロと一緒に風呂に入るとその気になっちゃうから別々に入ってもらってたけど、今はもう別にその気になっても構わないし」
「だ、だめですよ!
お風呂は別々でお願いします!」
「そうだな。
一緒にお風呂なんか入ったら、絵を描いてる暇がなくなりそうだしな」
俺がそう言うと、タロはまた赤くなり、それからそれをごまかすように立ち上がって茶碗を集めて流しに運んでいった。
「あ、俺も手伝うよ」
早く片付けを終えて二階に上がりたい俺は、タロを追って流しに向かった。
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