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3 人間のタロと★

「ご主人様、僕、試しにちょっと外に出てみますね!」 佐々木さんを見送った後、タロはそわそわした様子で玄関の方へ行こうとした。 「あ、待て。  どうせ外に出るのなら、そのままちょっと出かけないか。  タロが立派な神使になったお祝いにケーキでも買いに行こう。  何だったら外食してもいいし」 「はい! ありがとうございます。  あ、でも今日の晩ご飯はさっき材料買ってきてもらったから、外食じゃなくてケーキの方でお願いします」 「うん、そうだな。  それじゃあ、タロのズボンのお尻の穴をふさいだら出かけようか。  あ、あとその格好じゃ寒いから、俺の上着貸すよ」 そうして俺たちは、散歩から帰ったばかりだが再び出かけることにした。 準備を終えて玄関から外に出て、しめ縄を張った門柱の先に進む時、タロはおっかなびっくりだったが、俺が先に出て手を引いてやると、タロもそおっと門柱の外に足を踏み出した。 「出られました!」 タロは門柱の外に出ても、犬に戻ってしまうことはなく、人間の姿のままだった。 「よかったな。  犬耳と尻尾も引っ込められるようになったし、これで二人でどこへでも行けるな」 「はい!  今度からは商店街のお買い物も人間の姿で行けますね。  嬉しいです」 「そうだな。  さて、とりあえず今日はケーキ買いに行くか。  確かあっちのカフェに『ケーキ、テイクアウト出来ます』って書いてあった気がするから行ってみようぜ」 「はい!」 タロは元気のいい返事をすると、先に立って歩き出した。 その様子はいかにも浮かれていて、今にもスキップでも始めそうだ。 その後ろ姿を眺めていると、お尻に尻尾がないのがすごく違和感があるが、まあ、そのうちに慣れるだろう。 そんなことを考えながら、俺は浮かれているタロに追いついて並んで歩いた。 ―――――――――――――――― カフェでかろうじて売れ残っていたチョコケーキを2つ買って、俺たちはすぐに家に帰った。 家に着くと、タロはすぐにズボンの安全ピンを取って、犬耳と2本の尻尾を出した。 「すいません。  別に尻尾出さなくてもいいんですけど、なんかないと落ち着かなくって」 「そうだよなあ。  俺もタロに尻尾がないと、なんか変な感じがするなって思ってたんだよ」 尻尾は2本に増えたので前とは違うのだが、それでもないよりはある方がいつものタロらしい気がする。 「家にいる時は尻尾あってもいいんじゃないか?  俺しか見てないんだし」 「そうですね。  じゃあ、これからもうちにいる時は尻尾出しておきます」 そんなことを話ながら、俺たちは夕食の支度をして食卓についた。 「タロが人間の姿で出かけられるようになったから、色んなところに行けるな。  とりあえず、近いうちにお前が行きたいって言ってた温泉に行こうか。  近場の温泉地なら日帰りで行けるし、都内の温泉施設でもいいし」 「いいんですか?  ありがとうございます!」 「後でネットでどこがいいか調べような」 「はい!」 そうして温泉の話をしつつ楽しく食事を終え、食後にケーキでささやかなお祝いをした。 「タロ、神使に昇格おめでとう!」 「ありがとうございます」 「すごいよなー。  あ、そう言えば、佐々木さんはタロの神通力がここ最近で急に強くなったって言ってたけど、タロ、いつの間にそんなにがんばってたんだ?  前にがんばったら力が強くなるとは言ってたけど、どうやってがんばるのかは聞いてなかったけど、もしかしたら俺が見てない間になんか修行とかしてたのか?」 「あ、いえ、別に修行とかではないんですけど」 「じゃあ、どうやってがんばってたんだ?」 俺が重ねて聞くと、タロはどうしようと迷っているような顔になった。 「ええっと、それは内緒です」 「ええ? 内緒なのか?  だって、もう神様は俺には全部話してもいいって言ってたんだろう?」 「そうなんですけど、これはちょっと、僕自身が内緒にしておきたいので」 「ええー、なんだよ、水くさいな」 「ごめんなさい」 タロは俺に謝ったけれども、それでもがんばった内容を話してはくれなかった。 タロは意外と頑固なところがあるから、俺に話さないと決めたのなら、なんと言っても話してはくれないだろう。 「うーん、まあ、タロが危ないことや大変なことをしたわけじゃないなら、別にいいんだけどさ」 「あ、それは大丈夫です」 「そっか、じゃあ、内緒ってことでいいや。  それじゃあ、ケーキも食べたことだし、さっさと片付けて温泉調べようか」 「はい!」 とりあえず、タロががんばった内容に関しては気にしないことにして、俺はタロと一緒に夕食の片付けを始めた。 ―――――――――――――――― そうして夜が更けて、いつものように二人で2階に上がった(ちなみに温泉の予行演習ということで一緒に風呂に入ろうという提案は、やっぱり断られた)。 「あ、そう言えば尻尾がなければ正常位ができるんだよな……」 「なんですか? 正常位って」 「ん? ああ、タロが仰向けに布団に寝て、向かい合ってやる交尾のやり方だよ」 タロの尻尾が体の下敷きになるとかわいそうなので、タロとする時はどうしても側位や後背位が多くなりがちで、正常位はまだやったことがない。 タロが尻尾で感じることが出来ればいいのだが、タロは犬の時と同じく尻尾を触られるのが苦手らしいので、こう言っては申し訳ないが、正直セックスの時は尻尾はむしろ邪魔なくらいなのだ。 「そうなんですか。  それだったら今日はその正常位っていうのにしますか?  僕が完全な人間の姿になって尻尾を引っ込めたら、それできますよね?」 「うん、そうだな。  せっかくだからお願いしようかな」 「わかりました」 そう言うとタロはちょっと考えるような表情をして、ぱっと犬耳と尻尾を消した。 「ん、ありがとな」 礼を言いつつ俺はタロに軽くキスをして、そのまま口づけを深くしていきながら、タロのパジャマを脱がせた。 タロもだいぶキスに慣れてきたので、俺についてこようと一所懸命舌を絡めてくるのがかわいい。 タロのパジャマを脱がせ終えると、俺はタロを布団の上に横たえた。 この体勢でタロの丸い瞳にまっすぐ見上げられると、結構クるものがある。 今のタロは完全な人間というだけあって、いつもお腹にぷつぷつと並んでいる小さな副乳は見当たらない。 あ、そう言えば、この耳でも感じるのかな? タロは犬耳を触ってやるとすごく感じるのだが、人間の耳はどうなんだろうと思い、タロの左耳を触り、右耳に舌を這わせてみる。 耳を舐めながら横目でタロの反応を見ると、タロは何だか微妙な表情をしていた。 「あれ?  この耳は感じないか?」 タロの右耳から顔を上げてそう聞いてみると、タロは首をかしげていた。 「ううーん……そうですね、感じないみたいです。  なんか、いつもみたいにむずむずする感じじゃなくて、単に触られてるって感じがするだけで」 「ああー、そうなのか」 それはどう考えても性感帯だとは言えないだろう。 残念だけど感じないのならば仕方がないと、俺はさっさと乳首に移動することにする。 乳首を触ってやると、タロはいつものように感じ始めた。 かすかに犬っぽい鳴き声が混じる喘ぎ声を聞いていると、俺の方もようやく調子が出てきた気がする。 あー、けど乳首が二つだけだと、ちょっと物足りないかも。 いつもタロの乳首をいじる時は、一緒に副乳もいじるのが定番になっているのに、今日は普通の乳首しかなくて寂しい。 あんな小さい突起だけれども、いじってやるとタロは乳首と同じくらいに反応するので、気のせいかタロの方もいつもよりちょっと反応がよくない気がする。 うーん、まあ、ないものは仕方ないけどさ。 なんとなく物足りなさを感じつつも、俺はそのまま前戯を続けた。 「よし、タロ、挿れるぞ」 「はい」 やがてタロの方が十分準備出来たので、俺はタロの両足を持ち上げてタロの中に入っていった。 タロの中はいつも通りに熱く俺を締め付けてきて、俺は思わず「くっ」と小さく声を上げる。 「タロ、俺の背中に手を回してみて」 「こうですか?」 「うん、そう」 タロの言葉にうなずくと、俺はタロの中で動き始めた。 「あっ…、ご主人、さまっ……」 正常位なので、タロが俺のモノで感じているのが、その表情でよくわかる。 「タロ、目、閉じないで、俺を見て」 「あ……はい」 思わずといった感じで目をつぶってしまったタロの目を再び開かせると、タロはひどく恥ずかしそうな顔になった。 それでも快感に潤んだ瞳でちゃんと俺の言う通りに俺を見上げてくれているタロが、かわいくて愛おしくて、俺は思わずタロにキスをする。 「あ…キス……」 「うん。  正常位だとこのままキスできるからいいだろ?」 「……はい」 小さく答えるタロがかわいくて、俺は深くつながったまま、何度もキスをする。 「あ……おっきく…。  ご主人様、動いてないのに……」 「だって、タロがかわいいから」 いったんタロの唇から口を離してそう言うと、タロはぱっと赤くなった。 「あの、ご主人様……。  その、キスもうれしいんですけど……あの、出来たらもう動いてほしい、です」 タロのかわいいおねだりを、俺が聞いてやらないはずがない。 「よし、じゃあ、動くよ」 そうして俺たちは、いつものように互いに溺れていったのだった。 ―――――――――――――――― 「正常位って、いいですね。  ご主人様に抱きつけるし、キスもしてもらえるし」 後始末を終えて服を着て、さあ寝ようと二人で一緒の布団に入ってから、タロがぽつりとそんなことを言った。 「うん、いいよな。  タロが感じてるかわいい顔もよく見えるし」 俺がそう答えると、タロは恥ずかしそうな顔になって俺の胸をぺちぺち叩いた。 「うーん、しかし正常位はよかったんだけど、俺はやっぱりいつものタロの方がいいかも。  今日、小さい方のお乳がなかったのがちょっと寂しかったんだよな。  あと、人間の耳が全然感じなかったのも」 俺が正直にそう言うと、タロは「あ……」と小さく声を上げた。 「あの……実は、僕もです……」 「あ、タロもそうだったのか。  やっぱり、感じるところはいっぱいある方がいいよなー」 俺がそう言うと、タロは恥ずかしそうにうなずいた。 「えっと、それだと、耳とお乳はこれまでのままで、尻尾だけ引っ込められたらいいんですよね?  僕、ちょっとやってみましょうか?」 「あ、今日はもういいよ。  タロ、だいぶ眠そうだし、また今度にしよう」 「そうですか?  それじゃあ、また明日やってみます」 「うん。  おやすみ、タロ」 「おやすみなさい」 そうしてタロが目を閉じてしばらくすると、俺に寄り添っていたぬくもりが小さくなった。 あ、やっぱり寝ると犬に戻っちゃうんだ。 神使になっても、それは変わらないんだな。 これだと日帰り旅行に行って、帰りの電車で疲れて眠っちゃったりしたら大変だから、都内の温泉施設に変更だな。 そんなことを考えた後、俺はふとあることに気付いて、タロを起こさないようにそっと布団をめくってみる。 「あー、やっぱり尻尾が……」 案の定、眠っている犬の姿のタロのお尻には、2本の尻尾があった。 これ、ちょっとまずいだろ……。 俺と一緒に寝ているだけなら、別に尻尾が2本あろうが3本あろうが構わないが、もしも誰かがうちに来ている時にうっかり昼寝でもしてしまったら、大変なことになってしまう。 ……うん、また今度、佐々木さんに相談しよう。 とりあえず、今日明日困るようなことではないので、今夜のところは気にしないことにして、俺は布団をそっと元に戻すと、自分も目を閉じた。

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