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第1話
あれは、俺が初めて参加した忘年会での出来事だった。いつもは冷静沈着な上司である山形 拓人 さんが赤い顔をして陽気に笑っていた。その事にもまず驚いたのに、あろう事か、山形さんの上司である編集長―栩川 瑞穂 さん―が酔った勢いでこんな事を言い出した。
『おい、拓人お前千葉ちゃんにチューしろ、チュー』
『へぁ!? ちょ、栩川さん! 何言ってるんですか!!』
『だって面白いだろー! ほら、早く!』
そうして、気付いた時には唇を奪われていました。俺のファーストキスを返して……。
俺―千葉 櫻 ―は、東京の大学に通うごくごく普通の大学三年生だ。ちょっと特殊なのは、大手編集社「逢花社」で編集のアルバイトをしている事くらい。大学の友達のツテでアルバイトをする事になった。アルバイトを始めて半年、冒頭の忘年会の話に至る。
そして年が明けた今現在、俺はなんやかんやあって山形さんとお付き合いをする事になった。付き合い始めて二ヶ月経つが、山形さんのドSっぷりには驚かされている。それは追々話すとして。
寒波厳しい二月になり、俺は頭を抱えていた。今までなら、ワクワクドキドキ胸を弾ませていた時期なのに、俺は大きな溜息を吐く。そう、女子が男子にチョコを送る日――バレンタインがやってくるのだ。俺も山形さんにチョコを手渡すべきなのだろうか。そんな事をここ数日考えて、一人で悶々としているのである。
「どうしよう……」
「何がだ?」
俺の独り言がどうやら山形さんに聞こえたらしい。読んでいた本から顔を上げ、こちらを向いてそう尋ねて来た。俺はブンブンと首を横に振り、何でもない事を伝える。山形さんの家に来ている事をすっかり忘れて、物思いに耽っていた自分に恥ずかしさを覚え、それを打ち消すように、俺は山形さんに早口に話しかける。
「明日のバイト、俺十五時からなんですけど……」
「あぁ、知ってる。俺は外回りしてる時間だから……」
「そうなんですか」
会社で会えると思っていたからなんだか寂しくなる。しゅんとする俺に山形さんの手が伸びてきて、俺の頬に優しく振れた。指は頬から顎、首筋へと移動しやわやわと俺の弱い所を刺激してきた。
「ちょ、山形さ……」
「明日会えないのが寂しいんだろう? だったら今可愛がってやるよ」
「んっんぅっ……」
口腔内にヌラリと舌が侵入してきて、俺のと絡み合い水音を立てた。それだけで頭の中が真っ白になり、俺の中心部分がじんじんと熱を持ち始める。
「ん、は……ふぁっ、んんっ」
「もうこんなにして……」
「ッだって、最近なかなか二人きりになれなかったし……」
そう、最近山形さんの仕事が忙しくなり、家に帰ってくる時間も遅い為なかなかこうして二人きりになる時間がなかった。ちなみに俺は別でアパートを契約しているが、山形さんの休みの日にはこうして泊まりに来るようにしている。
布越しに俺自身を握り、上下に動かし始める。それだけで息が詰まった。しかし、その刺激は微弱でもどかしい。俺はねだる様に腰をくねらせる。
「山形さ、意地悪、しないで……」
「寝室に移動するぞ」
足に力の入らない俺をよそに、山形さんは俺を抱きかかえて寝室へと移動する。これから行われる行為を想像して、俺は熱い吐息を漏らした。
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