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第1話
2月の寒いある日。
夜に帰ってきた東城は冷蔵庫の奥に箱を見つけた。
気づいたのは偶然だ。
その箱は、大きな器の向こうのフードコンテナの隙間に隠すように置いてあったのだ。手のひらよりも少し大きいくらいの楕円形の箱だった。
クリーム色にこげ茶色の凝った模様がついていて優美な金色のロゴが描かれている。
どこかで見たようなロゴだ。なんだったろうか。
好奇心がたって、東城はその箱を手前によせ、スマホで写真を撮った。それから画像検索をしてみた。
すると、ぞろぞろと同じ画像がでてくる。東城はやっと理解した。チョコレートだ。それもかなり高級。日本のこの寒い季節は特別なチョコレートシーズンだ。
東城は箱をもとにあった場所に押し戻した。
これが何かはわかった。次の疑問は誰が買ったのか、だ。
石田さんかな、と思う。冷蔵庫は石田さんに管轄権がある。
このチョコレートは、石田さんからのバレンタインチョコだろうか。いや、石田さんは今までもバレンタインチョコをくれることはあったが、それは、手作りのものだったはずだ。こんな高級チョコには頼らないプライドが石田さんにはあるだろう。
とすると、買ったのは広瀬だ。
そう思いついてかなり驚いた。
そんなキャラだとは思わなかった。俺にバレンタインチョコを用意するなんて。それも奥ゆかしく冷蔵庫の奥に隠しておくなんて。
サプライズのプレゼントができるほど、高度な情緒があいつにあるとは思わなかった。あれでもかわいいとこあるからな、と東城は思った。黙っといてやろう。それで、彼がチョコをくれたら驚いてやろう。
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