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第48話 もっと触って欲しいから

 ちょっと驚いたような顔をしている泉水をよそに、一季はタオルケットを脇へよけた。そして、するするとパジャマにしていたTシャツの裾をたくしあげてゆく。すると、泉水が「ふぉぉぉ!?」と目玉をひん剥いた。  シャツをちょうど胸の下あたりまで捲り上げ、一季はぎゅっと目を瞑る。 「え……エッ……!? 一季くん……どないしたんっ……!!!?」 「………………したいです」 「へっ……?」  思っていた以上に、もの悲しげな声が出てしまった。  ぎょっとしている様子の泉水を前にしていると、こんなことを口にしてしまう自分が、心底恥ずかしい人間に思える。だが、一度漏れてしまった本音は、もはや溢れ出すほか行き場がない。一季はシャツを握りしめながら、さらなる本音を口にした。 「したいんです。……泉水さんと……せ…………セックスを」 「ぇ…………え!? えっ? ほ、ほんまに……!?」 「僕……この三日、ずっとしたくて……でも泉水さん、フェラで引いてるみたいだったから、言い出せなくて……」 「えっ!? いや、いやいやいや、引いてへんよ!! むしろ、あんなスゴイことしてもたから、当分、もうあれ以上のことは出来ひんかなと思って……俺も、遠慮してて……」 「へ……?」  予想外の台詞に驚いて、一季はさっと泉水を見上げた。すると泉水は、真っ赤になりながらうなじを掻いている。そして、しどろもどろにこんなことを言う。 「く……口で、あんなことしてもらったんやし、これ以上贅沢言うたらあかんなと……」 「ぜ、贅沢って! そんな大したことではないと思うんですけど……」 「いやいやいや! 俺にとってはおおごとやったし……! けど実は毎晩、一季くんともっとイチャイチャしてみたいなと思ってたんです……」 「え……ほんとに? 僕とイチャイチャしたいって、思っててくれたんですか?」 「うん……。けどあんまりそういうの押し付けてもあかんし、……実はさっきも、風呂場で抜いて……」 「え……あ、そうだったんだ……」  なんということだ。泉水もまた、一季と同じことを考えていたというのか。  さっきの水音の向こう側で、泉水が自慰に耽っていたのかと思うと、なんだかじわっと身体中が熱くなった。今まさに、自分もここでオナニーをしようとしかけていたのだ。それならばいっそ、二人でそういうことをすればいい。  つまり、セックスを……。  お互いの意思確認ができてしまうと、また妙に照れてしまう。一季はめくりあげたシャツを人知れず元に戻そうと、そろりそろりと手を動かしかけた。  が、その手は、泉水によって制止されてしまった。手首を軽く握られ、はっとして泉水を見上げる。  すると、熱っぽい表情で一季を見つめる凛々しい瞳と目線が絡んだ。ドクン……と、胸が高鳴る。 「……一季くん……」 「は、はい……」 「きょ、今日は俺が……一季くんを、気持ちよくしたいです」 「あ……」  握られた手首を、そのままシーツに縫いつけられる。泉水の首に引っかかっていたタオルが、ふわりと外れた。  そうして一季の上に覆いかぶさってきた泉水の襟足から、ぽたりと一粒、水滴が落ちてくる。それは一季の頬を濡らし、つうっと耳たぶの方へと滑り落ちていった。 「う、うまくできひんかもしれんけど……頑張るから」 「え、いや、うまくやろうなんて、思わなくても……! 僕はただ、泉水さんに触ってもらえるだけで、本当に嬉しいんです」 「……え? ほ、ほんまに?」 「本当です。……今だって、泉水さんにこうされてるだけで、もう……」  一季がもじ……と腰を蠢かせると、泉水の目線が下へと降りた。柔らかい素材のコットンパンツを盛り上げる、一季の屹立に気づいたらしい。「おお……」と感嘆の声を漏らしている。  手首を掴まれ、真上から見下ろされるだけで、一季の興奮は高まる一方だ。最奥まではきゅうきゅうとひくついて、泉水の肉棒を求めてしまう。浅ましい自分が恥ずかしいことこの上ないけれど、泉水のものになりたいという気持ちは本物だ。身体中にくすぶった熱が、一季の欲望を加速させる。 「……だ、だから……好きなようにしてくださっていいんです……! 泉水さん、いつも自分を抑えてくださってますけど、でも……っ」 「でも……?」 「でも今は、泉水さんに……めちゃくちゃにされたい気分なんです……!」 「……………………ふぐぅ…………」  勇んで声高にそんなことを訴えると、泉水は口元を押さえて、ふらりと前のめりになってしまった。そしてそのまま一季の方へ倒れこみ、肩口に額を埋めている。 「あっ、泉水さん……! 大丈夫ですか!?」 「だ、大丈夫……大丈夫…………。め、めちゃくちゃって、めちゃくちゃって……そんな、そんなかわいい顔で言われてしもたら俺……あかん、鼻血でそう……」 「えっ、あ、あの、ティッシュならすぐそこに……!」 「い、いや……大丈夫。たぶん、大丈夫……」  泉水の重みが心地良い。一季はそっと手を持ち上げて、泉水の背中に腕を回した。しっとりと腕に吸い付く泉水の肌の感触は、思った通りの気持ち良さだ。もっともっと泉水をそばに感じたくて、肌の匂いを深く吸い込む。 「…………はぁ……泉水さん……好き」 「っ……うう……かわいい……」 「え?」 「いや……俺も、こうやってくっついてるだけで、ちょっとヤバイ。ヤバイけど……っ……」  泉水はがばりと顔を上げ、うっすらと赤らんだ頬を恥じらうように微笑んだ。  そして、恐る恐るといった調子で一季に顔を近づけて来たかと思うと、ふわ……っと綿毛のように軽いキスをした。と同時に、泉水の手のひらが、わき腹に触れる。 「あ……」 「しゃ、シャツ……もっと、めくってもいいですか?」 「あ、どっ……どうぞ……!!」  唇が離れるか離れないかの距離でそんなことを囁かれ、ゾクゾクと昂ぶった。すると泉水は身を起こし、ふるふると震える指で、ゆっくりと一季のシャツを捲り上げていく。  胸の上まで露わにされ、一季は気恥ずかしさのあまりぎゅっと目を閉じる。  すると、感極まったようなため息が上から降ってきた。一季がゆるゆると目を開くと、一季の肉体を食い入るように見つめながら、わき腹や腹に手を這わせる泉水の姿が見えた。 「……はぁ……一季くんて、ほんっまに、きれいな身体してはる……」 「そ、そんなこと……」 「もっと触っても、いい?」 「うっ……うん、いいです…………ひぅっ……」  ちゅ……と首筋に降りてくる、泉水の唇。はむ、はむと首筋を食まれ、性感を刺激するくすぐったさに身体が震えた。それと同時に、泉水の指が一季の胸元へと這い上がる。首筋から耳たぶを甘々と啄ばまれつつ、泉水の指が、一季のツンと尖った乳首に触れ……。 「アっ……んッ……」  すでに硬く芯をもっていた一季の尖を、泉水の指がくにくにと弄ぶ。甘くビリビリと痺れるような快感が一季の全身を駆け巡り、あっという間に息が上がった。  ――うわ……あ……気持ちいい、乳首、気持ちいいよぉ……っ……!! 泉水さんの指、動き方エロい……ん、ふぅっ……。  泉水に気持ちがいいと伝えたかったが、上手く喋ることができなかった。耳たぶをかぷりと噛まれ、びくん! と一季の身体が跳ねてしまう。  熱く濡れた舌で耳たぶを舐めくすぐられる感触は、ものすごく淫らだ。普段の泉水からは想像もつかないような、いやらしい感触である。 「っ……ンぁ……いずみさん、んっ……んぅ……」 「一季くんの声……むっちゃかわいい……もっと、色んなことしたくなりますね」 「ぁ……!! あっ……」  耳孔のすぐそばで、低い声でそんなことを囁かれる。一季のものより数段低い泉水の声は、腰にくるほどセクシーだ。あっという間にふにゃふにゃにされてしまい、全身から力が抜けていく。 「いずみさん……ハァっ……」 「表情も……めっちゃエロい……。一季くん……かわいい。ほんっまにかわいい」  明らかな興奮を滲ませる泉水の目線に射抜かれて、腹の奥がまた切なく疼き始めた。早く欲しい、早く欲しいと身体は騒ぐが、泉水とのセックスはまだ始まったばかりである。もっともっと、泉水に触れて欲しくて、愛して欲しくて、一季はとろとろにとろけきった表情で泉水を見つめた。 「ん、ふぅっ……!!」  すると、一季の求めに応じるように、泉水の唇が乳首へと吸いついてきた。もっちりとした弾力の素晴らしい泉水の唇が、鋭敏になった一季の尖に絡みついている。  たっぷりと濡れた唇と舌が、吸いついては離れるたび、淫らな水音が響く。 「あ、あっ……ぁ、ンっ……! んぅ……ン」  いよいよ高くなってくる喘ぎ声が恥ずかしく、一季は手のひらで口元を覆い隠そうとした。すると、泉水はふと顔を上げ、一季のその手をもう一度掴んだ。 「なんで口、押さえるんですか?」 「だって、っ……おっきいこえ、出ちゃうからっ……」 「お……おっきい、声…………」 「恥ずかしい、んです、僕……っ……だから」 「恥ずかしいなんて……全っ然、思わなくていいです。俺、もっと聴きたい。一季くんのエロい声……」 「あッ……!!」  尖らせた舌先で、形をなぞるように舐め転がされ、とうとう甘い悲鳴が漏れてしまった。  両手首をシーツに押し付けられ、ちゅっ、ちゅぷ……ッといやらしい音を立てながら弄られて、一季は「あぁ、あっ……ァんっ……ん!!」と前後もなく乱れてしまった。

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