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苦しい。 どうしたっていうんだろう、息ができない。 いや、鼻で呼吸はできる。 口が……何かに塞がれて……? 真っ暗で何も見えないし手も動かせない。 混乱する頭の中にいくつかの映像が浮かび上がる。 吹きすさぶ雪、点滅する、家の前の壊れた外灯、そして……。 嗅いだのは強烈な薬品の匂い。 「起きた?」 壱也(いちや)はぎくりとした。 聞き覚えのない男の声。友達のものではない。 「剥がしてあげる」 その言葉が言い終わらない内に目元に鈍い痛みを感じた。 粘着テープを貼られていたらしい。 薄暗い。 目の前にいる人物の輪郭が次第にはっきりとしてくる。 しかしその顔を確認するより先に、壱也は、別のものをその視界に捉えた。 不気味な光を放つナイフ。 「口もつらいだろうから剥がすよ。だけど大声を出したり妙な動きを見せたら、刺す。わかった?」 それはドラマや映画で見るような強そうなナイフだった。 サバイバルナイフというやつだ。 今、それが自分の目の前に突きつけられている。 夢としか思えない。 「夢じゃないよ」 壱也はやっとその男を見た。 男は強そうなナイフとは随分と不釣り合いな顔をしていた。 服装もスーツで凶器とバランスがとれていない。 やはり夢としか思えない。 「さっき、僕が言ったことは理解できた、壱也君?」 ナイフの切っ先を喉に当てられて壱也は目を見開かせた。 「騒がないって、約束する?」 壱也は何度も頷くしかなかった。 「……いてっ」 口の粘着テープを勢いよく剥がされて壱也はつい声を上げた。 慌てて唇を閉ざして男を見る。 「それくらい、いいよ。騒がなきゃいいんだから。で、何か質問ある?」 優しくもきつくもない口調だった。 特に残忍そうなわけでもない。 「質問、ない?」 男は質問してほしいようだった。 しかし驚愕と動揺に打ちひしがれている壱也は声さえ出せなかった。 この男が怖い。 「……僕は吉崎充(きざきみつる)。君のお父さんの下で働いていた。今は違うけど」 吉崎はそう言うと壱也の耳元にいきなり顔を寄せた。 「愛人でもあったんだよ」

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