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前編

「ひっぐっ、うっ、っぐ、あっ、青葉ぁー! うあぁああー!」  俺、宮代高校一年三組出席番号二十八番 渡瀬 真守。  意気揚々とクラスメイトに誘われた合コンに出掛けたのは昼過ぎ。男しかいない、しかも寮生活ということで女の子に飢えていた俺はそれはもう張り切ってお洒落して普段はセットしていない髪型だってバッチリ決めて、意気揚々と街に出掛けたのだが、その十時間後には寮で同室の青葉 侑に泣きついていた。  ど う し て こ う な っ た !   「どぉーしたのォー? まーもーるぅー。泣いてるだけじゃぁわっかんないんだけどぉー」  共有リビングに設置してあるソファーに足を組んでゆったりと座る青葉の腰にしがみつき、俺は未だにビービーと泣いていた。  泣き始めてから二十分は経っただろうか。青葉はただただ泣くしかできない俺を引き剥がして見捨てるでもなく、たまにせっつきつつも根気良く待っててくれてる。  知り合って半年そこらの俺が言うのもなんだが、青葉は癪に触るような間延びした喋り方やチャラい外見をしているが、意外と優しい。  申し訳ない話だが、寮の自室で初めて青葉と顔をあわせた時、これから俺カツアゲの鴨にされる……と高校生活の未来を憂いたものだ。髪を染めて服も着崩し、更には耳にピアスが一個や二個ではない。  片や俺は一般人を地で行く平凡。グレたことも反抗期も訪れない程のんびりと平和な人生を歩んできた。喧嘩慣れしてそうなヤンキーと戦っても負ける自信しかない。何かスポーツでもやっていれば良かった。  何か対策をしなければ! と頭を悩ませたものだが、それは見事気鬱に終わったのだった。  ヤンキーはヤンキーでも、一般人には優しいヤンキーでした。  ポン、ポン、と一定のリズムで背中をあやすように叩かれ、呼吸が徐々に落ち着いてきた。  さり気なく他人を気遣える青葉をこんな深夜に俺のせいで半ば拘束してると思うと、なんだか罪悪感が芽生えてきた。罪悪感を感じたら、今度は頭も冷えてきた。頭が冷えたら現状を理解し始め、青葉の前で号泣したという事実が恥ずかしくて俺は息を止めた。   「こーらぁー、息しないと、死ーぬーぞぉー? いーのぉー?」 「ぷはぁっ!」 「ははっ、ばかだねぇー、まぁーもぉーるぅーはぁー」    ケラケラと笑う青葉に、俺はゴメン、と一言詫びを入れて青葉を拘束していた腕を放した。しかし体を起こして距離を取ろうとする俺の肩を、こんどは青葉ががっしりと腕を組んで拘束し、逃がしてはくれない。 「もちろーん? 真守が泣いてた訳、話してくれるよねぇー?」 「あっ……う……」  その言葉に、俺は僅かに身じろいだ。青葉にこれだけ迷惑をかけたのだから言うべきなのだろう。それは痛いほどわかっている。わかっているのだが……。 「吐くよな?」 「……………ハイ」  青葉の笑顔と独特の喋りの癖が無くなったときのの圧力半端ない。俺は直ぐ様白旗をあげた。 「あ、のさ……アブノーマルな話になんだけど、その……あー……っと」 「だーいじょーぶ。何聞いても俺は真守のこと嫌いになんないからぁー」  その言葉と共に、スラッとした長くて綺麗な指先でサラリと触れるように頭を撫でられ、俺は覚悟を決めて口を開いた。 「お、俺、合コンに行って、一人の女の子と良い雰囲気になったんだけどさ。あー…合コンが終わった後彼女の家で二人っきりになれて、その……そういう空気になったんだけど……」 「もーしかーしてぇー、勃たなかったとかぁー?」 「いや! 勃った! 勃ったぞ! 勃ったんだ、けど……それが問題と言うか……」  やっぱり言わなきゃダメか?  そんな思いを込めて青葉を見上げたら、真剣な眼差しで俺を見つめる青葉の顔があって、思わずゴクリと息を飲んだ。 「そぉれぇじゃぁー、なーにが問題なのよー」 「うっ、ぐ……っ……ほ、掘られた……」 「……は?」  青葉の呆けた声にカアァーっと耳まで熱くなる。  「だっ、から! その子に掘られてっ、いっ、いいいい、イっちゃった、んだ、よおおぉぉお! あぁああああぁぁぁ恥ずかしい死ねる死にたい恥ずかしいぃぁあぁあああああ!」  俺ってソッチ側の人なのかなぁあ……なぁ、どう思う? と開き直ったところで、ガシッと両肩を痛いくらいの力で掴まれ、体が硬直した。  いったい誰が掴んだのかって? そんなの、目の前の青葉しかいない。  ハッと顔をあげるとそこには真剣な瞳で俺を見つめる青葉が居た。その視線の強さは痛いくらいで、思わずごくりと唾を飲んだ。 「なぁ、マジで言ってんのソレ」 「はっ? いや、ちょっ! いたっ、痛い! 腕っ、痛いって!」 「俺の質問に答えろよ。お前マジで掘られたの」 「いつつ…こんな話冗談で出来るかよ!」  寧ろ冗談だったらどれほど良かったか! 女の子に大人の玩具で掘られてイったなんて……男のプライドは砕かれて、小麦粉みたいにサラサラになったわ!  肩を掴む青葉の手を外そうとするが、強い力でびくともしない。こいつ、こんなに力強かったっけ? いつも押せば離れるし、ちょっかいをかけられても止めろと言えば止めてくれるので、俺の意に反するようなことをする青葉は初めてだ。  得たいの知れない青葉の一面に、背筋にぞくりと何かが走る。   「……俺さぁ、真守が女の子とセックスすんのはべつに構わないんだけどぉー」 「あお…ば…?」  今までに見ることがなかった、青葉のギラついた瞳。その強い視線に全身を絡め取られたように動けなくなる。今の俺と青葉の立場は完璧、捕食する側とされる側だろう。 勿論、俺が捕食される側だ…。 「他の誰かに真守のバックバージン奪われるのを許した覚えはねぇんだわ」  なにを言ってるんだ? と理解したときには既に遅かった。青葉の顔が近づき、あっと言う間に唇が食われ。    そして世界が暗転した。  
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