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第1話

「先生、お世話になりました」  式を終えた卒業生が、そういいながら僕のすぐ隣を走り抜けた。  彼らの表情はそれぞれで、別れを惜しむもの、学校という枠組みから抜けたという喜ぶもの、進学について真顔で話し合うもの。  思いはそれぞれ飛び交う。  それを見守る僕に、声をかけていく元生徒もいる。  毎年この光景を見てきた。そして彼らの新たな門出に幸せあれと願う。  しかし、今年はいつもと違う。遠目から女生徒に囲まれた一人の男子生徒を見る。 長身で優し気な目元。髪は色素が薄く、風に吹かれさらりとなびく、その髪が好きだった。  いや、正直言うと今も好きだ。だけど、この思いは心に秘めておくもの。教師で大人だから。彼ら少年のように好きにふるまえない。  ――いつかこの思いは昇華されるだろうか…? ***  初恋は学生のころ。告白する前に異性の恋人を紹介されて、失恋した。彼とは今でも親友という立ち位置で苦しんでいた。  けれど、彼……石崎渉(わたる)が入学してから僕の心は彼に囚われた。  親友に『最近変わったな』と言われたけれど、仕方ないだろう。  おかげで親友の結婚式に悲しむことなく参列できたし、赤ちゃんを見せてもらったときも普通に祝えた。すべては、渉(わたる)の存在のおかげだ。  そんな日々は早く過ぎて……もう彼は卒業してしまった。  遠くから渉を見ていてそんなことをつらつらと思いだしていたら、ふいに彼がこちらを見た。それはいつものこと。先生が見ていたら、何だろうかと気になるだろう。  だけど先生という立場だからこそ、隠れることなく見ていられる。監督責任があるからという理由があるから。これからはその理由さえなくなる。  ――さみしい。  とてもさみしい。僕はまた失恋をしていくんだ。このまま一人朽ち果てていくのかと思うと目の前が闇に覆われそうな気分になる。

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