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第2話

「――先生」  思考の中にいた奏斗(かなと)を呼ぶ声に我に返る。目の前には遠目に見ていた男子生徒、渉(わたる)がそこにいた。 「先生、なにかありましかた?」 「いや、問題ないよ」  いつものやり取り。先生と生徒の関係はこんなものだ。そして渉は優秀な生徒だから問題があったことはない。それでも気にして声をかける優しさを彼は持っている。 「工藤奏斗先生、三年間お世話になりました」  フルネームで呼ばれ奏斗は少し同様する。この生徒には「工藤先生」としか呼ばれたことがなかった。  たまにふざけた生徒などは「奏斗先生」「かなちゃん」と呼ぶものもいた。それでもフルネームで呼ぶ人はそうそういない。教師同士でも名字が被らない限りは「工藤先生」だから。 「石崎さん、卒業おめでとう。これから大学でも頑張って」  ありきたりな言葉。  それでも渉はにっこり笑う。 「……奏斗先生、相談があるんですけど。夕方とかお時間ありますか?」 「相談? 何か心配事? 今でもいいよ」 「いえ、ちょっと長い話になるので……」  渉が言いよどむことで、なんとなく内密にしたい相談だと奏斗は察した。卒業しても生徒は生徒。今後の進路で悩むことがあるのなら、相談に乗りたい。  この恋心とは別に、教師としての信念だ。 「夕方……雑務で遅くなるけど。定時で上がれるように調整しておく。場所は――」  そんな感じで夕方の時間に、渉と会う約束をした。  学校外で生徒と会うのはどうだろうと、と思ったけど……相談というなら話は別。教師として導くのも仕事だ。  定時で上がる理由は適当に言い訳して、残りの雑務はまた早出してやれば問題ない。報告書はすでに提出してあるし、とくに問題ある案件は今のところない。  学校を出て、待ち合わせしている場所へ奏斗は向かう。

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