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第3話

 この季節になり、太陽が沈んでいくのが少し遅くなったなと実感する。  簡単に服を整えネクタイの位置を直す。ただの元生徒の相談を聞くだけと分かっていても、胸が高鳴る。  ――結局僕は……個人的に会えるのが嬉しいだけなのか。  そんな自分自身に苦笑し、道を急ぐ。 「先生」  すでに待ち合わせ場所にいた渉は、見慣れない私服を着ていた。黒系のチノパンに白いハイネックと紺色縦線の入ったマフラー。その上から紺色に近いジャケットを羽織っている。  見慣れない。制服のときより大人びて見え、さらに長身に見えた。 「先生、わざわざ来てくれてありがとうございます」 「いや大丈夫。それより待たせてすまない。……それから卒業したんだから『先生』はやめて名前で呼んで」  渉は素直に頷く。でも本当は卒業しても生徒は生徒。先生は先生で、なにも卒業したからと言って呼び方を変えたりしない。  何か言われたら、個人的に学校の外で会うのは――とか適当に理由をつけてしまえばいいやと考えた。  ――どうせこれが最後になるんだ。  本来なら外で個人的に会ったりしてはいけない。それは卒業生に対してもそうだろう。何をしても問題になる時代だから、警戒しなくてはいけない。  心が病んで職場を去る人も一定数いるのだから。教師が生徒の親から訴えられたときに必要とする保険加入制度は、仕方ないけど嫌なものだ。 「奏斗さん」 「え?」 「いえ、名前でって言ってくれたので。だめですか?」 「あ、あぁそうだね、それでいいよ。呼びなれてないから驚いた」  冷静をよそうけれど、本当に心底驚いた。好きな相手に学校以外で会えたうえ、名前で呼ばれるなんて……本当になんという奇跡なのだろうか。  ――卒業はとてもさみしい。でも、名前で呼ばれるって嬉しい。とても。 「奏斗さん。寒くなってきたので、どこかお店に入りませんか?」 「うん、気が利かなくてごめん。カフェがあったからそこにしようか? 静かなお店だし」 「ありがとうございます」  気を抜いたら、頬が赤く染まりそうでちょっと怖いと奏斗は思う。制服と私服のギャップってすごく危険だなと心に刻んだ。  渉が何を相談したいのか、何を考えているのか全く分からないけど、今はとりあえず寒くないところに移動をしようと考えた。

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