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第14話
影絵 影
朝の空港はせわしなく行き交う人やのんびりと連れ合いと語らう人たちで賑やかだ。
荷物を運んでくれた現地のスタッフに2年間のお礼に感謝を込めてハグをする。
「 ハセ、ゲンキデ 」
という言葉にもう会うこともないんだなと感慨深く思う。
なんやかんやで右も左もわからぬこの国で最初からお世話になった彼。
「 サヨナラ 」
という最後の挨拶に僕はしっかりとお辞儀で返した。
今日帰国する便に乗ることは親には電話で伝えてある。
2年前日本を出てきた夜にラインやメッセの類は全て消してきた。忘れるために、思いを断ち切るために。
異国の土地で新しいスタッフと仕事をした。心機一転という言葉の通りに自分を変えたかった。
2年の間連絡つかない筈もない。会社宛てのメールや手紙を何通も受け取った。その全ては暗記するほど読んだのに返せた言葉は本当に素っ気なく冷たいと思われるほど事務的な返信だった。
一年前には休暇にこっちに来ると連絡があった。それには自分も休暇だから友人とヨーロッパに行くと返した。
なんてイヤな奴だと思っただろう……もういい加減に連絡を断つだろう、そんな哀しい期待は外れなかった。その時期から段々と日本の便りは本社の連絡以外遠ざかった。
帰国してどうするか。元の家は転勤の時に契約を解除したから新しい家も探さなくちゃ。暫くは大手町の本社勤めだろうから今度は千葉よりの沿線に住もうかな。駅や街ですれ違うことのないように、
あの待ちぼうけした駅を使うことのないように……
フライトまでの時間をこんなことばかり考えて待っている僕を覆う回顧の波。どうか静まって欲しいと目を瞑る。
到着便や出発便の異国語のアナウンスが絶え間なく流れる。
その時
空港のベンチで俯く僕の前に影が落ちる。
「 迎えに、来た 」
空港の喧騒の中で僕の両耳にしっかり届いたその声に、
甘く切なく懐かしく2年間片時も離さず心から欲したその声に、
ふいに頰を流れるのは暖かい涙だった。
了
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お読み頂きましてありがとうございました。
影絵はフジョッシーさんの中
わらびさんと
蜜鳥さんの
手と脚のシルエット画像
(うんこさんによる画像)
作者あてクイズに参加させて頂いたSSに続きを書いたものです。
あの企画がなかったら産まれなかった……
ほんとうにお三方には感謝いたします。
続篇を書こうと思います。
そのプロローグでSSをアップ致します。
又お読み頂けましたら嬉しいです。
拝
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