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放課後、図書委員の凛は五時半まで図書館で過ごした。 学校を出ると六時半まで付近のコンビニや本屋で時間を潰す。 次に向かった先は最寄りのバス停、ではなく、複雑に入り組んだ裏通りにぽつんとある、ブランコと鉄棒しかない小さな児童公園だった。 三月に入って日中の気温は大分上がったものの、日が暮れたら冷気がぐんと増す。 表通りの喧騒がか細く聞こえてくる中、園内にある唯一の外灯に照らされたブランコに座り、マフラーに首をすぼめた。 五分くらい経過した頃だろうか。 公園前に見慣れた車が停車した。 慌てて立ち上がり、駆け出した凛は、車の助手席にあたふたと乗り込んだ。 エンジンがかかったままの車はスムーズに発進する。 「毎回あんなに慌てなくていい、転びそうだぞ」 放課後、バスケ部の練習指導を終えていつもの待ち合わせ場所までやってきた郷野に言われ、凛は赤面した……。 市街地の夜景が一望できる、中心部から少し外れた高台。 適当な道路脇に車を停めた郷野は助手席でじっとしている生徒の名を呼ぶ。 「藤崎」 凛はぎこちなく運転席の方へ顔を傾けた。 シートの間で二人の唇が重なる。 「……ん」 柔らかく啄ばむようなキス。 半開きの唇がそっと温められる。 凛は喉奥で小さな声を洩らし、郷野から与えられる微熱にまた頬を赤く染めた。 「……先生、ほっぺた、大丈夫ですか?」 郷野が顔を離すと凛はすぐに昼休みの一件に触れた。 口元に絆創膏を貼っていた郷野は頷くと、シートに広い背中を落ち着かせ、口を開いた。 「大丈夫だ。そういえば、お前、あの場にいたな」 先生、オレに気づいてたんだ。 凛は唇に残る余熱に相変わらず赤面したまま、隣で夜景を眺めている郷野の横顔をためらいがちに窺った。 鋭い眼差しは薄闇によって心なしか和らいで見えた。 少し伸びた前髪が凛々しい眉にかかっている。 学校で生徒に怖がられている厳しい体育教師。 だが、一部の生徒からは熱烈な人気を得ている、凛より一回り年上の寡黙な大人の男。 ……声をかけてきたあの上級生とは保健室まで一緒だったんですか? 「どうした」 何か言いたげな凛の気配を察して郷野が問いかけてくる。 凛が力一杯首を左右に振ると、手を伸ばし、頭を撫でてきた。 やっぱり、オレ、子ども扱いされてる? 二十八歳で背が高い先生から見ればちっちゃい生き物レベルなんだろうけど。 大きな掌でこんな風に触られるのが大好きってことは、まぁ、間違いなくお子様……ってことなんだけど。 「先生が殴られた時、心臓が止まりそうでした」 凛はそれだけを郷野に伝えた。 生徒のそんな言葉に、郷野は、呟いた。 「心配させて悪かった」

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