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第1話 転生妖精
俺は病死した。……三十歳の誕生日に、だ。
そして……童貞だった。
世間では三十過ぎの童貞は『妖精』になれるらしい。
―……そんなバカな。
もちろん、そんなのふざけた話……だと、俺も分かっていた。
……だが、俺は本当に妖精になってしまった。
正しくは、『妖精に転生』した。
「クラ―――――サ! クラ―――――サ! ……ク……ラ―――――サァアアア!!」
自分を呼ぶ声に俺は葉っぱの上で寝るのを止め、上半身を起こして伸びをした。
そして葉の端から顔を出し、俺を呼んでいる相手の名前を口にし呼んだ。
「……何……? アメール……?」
俺を呼んでいたのは、妖精仲間の"アメール"。
はっきり言って、超が五個は付く美少年だ。五ツ星美少年だ。
俺は同年代でコイツ以上の美少年、又は美少女な妖精を知らない。
ふわふわの蜂蜜色の髪の毛に新緑色の涼しげな瞳、ミルクの様な色合いの滑らかな肌、均整の取れた四肢……どこを例えても、最高級品なアメール。
一方俺は、桜色のサラサラ髪に、ちょっと垂れて大きい瞳は蒼、肌は……まぁ、白い方だな。んで、子供……男の妖精の中では一番ガリチビ。前世が病弱だったのって、何か関係してんのかな?
この世界の妖精は、生まれて初めて見た"自然物の色"が瞳に、初めて食べた"花の色"が髪の毛の色になるんだ。
俺は初めて"青空"を見て、桜色の花弁を食べたから、こうなった。
アメールは木の若葉を見て、黄色い花を食べたと言っていた。
そしてアメールは俺の声に合わせて、妖精の粉で煌く軌跡を描きながらこちらに近づいて来た。
「こんな所に居たのか!」
「ん……。で、なに? 俺に用事? ふぁ……ッ、く……」
「相変わらずノンビリしてるな、クラサ!」
「ふわー……。だって最近、眠くて眠くて……」
「それはお前が"成人の儀"が近いからだよ」
「……んー……そっかぁ……」
―"成人の儀"……。
この成人の儀ってのはさ、男女の子供妖精は16歳になったら同種……または他種族の成人している者の"精"を貰う儀式の事なんだ。
ま、精を貰うってのでもさ、貰い方は口から摂取や……奥で深く繋がる、とか、色々だけどな?
ちなみに相手は男でも女でも大丈夫なんだ。お好みで、って訳。だから同性でも何も問題無い。
「何てったって、身体を大きく出来るんだからな! 身体作りの為に体力使ってんだろ」
「んー……かなぁ?」
そう。この世界の大人の妖精達はみーんな、"人"サイズ。んで、子供の妖精は"手の平"サイズなんだ。
そして、儀式や特別な時に秘薬で一時大人……人サイズになり、儀式が無事終了すればその大人になった証として人サイズで暮らせるようになるんだ。
これはさ、多分貰った物の何らかの情報を取り込んで、自分用に書き換えて出力してんじゃないかなーとか勝手にツラツラと考えてみたり?
んで、子供には必ず生えている翅は大人だと出し入れ自由になるんだ。便利ぃ~。
「ところでアメール、俺んトコに来るまでに誰か……いた?」
「んーと……? いない、かな?」
「そっか。あんがとな」
……なら……、この辺を見回っているダークエルフのカルティノ、もうここは過ぎたのかな……? 今日はもう見れない?
彼、マジイケメンで超目の保養……なんだよなぁ。
実は俺がこの場所でゴロゴロしていたのも、彼を遠目でも見る為なんだよ……。
あとさ、ここの世界でのダークエルフってのは、悪いイメージではないんだ。暗闇を好んでいて、闇魔法と剣術……戦闘が得意な種族ってイメージ。
俺はアメールの言葉を聞きながら、目的のダークエルフを思い描いていた。
「……はぁ……」
そんでさ? しかもさ? しかもさ? 実は今まで何度か……目が合った…………と思うんだよね……!
……俺の成人の儀……の相手、彼が良いなぁ……。何て、ダメかなぁ?
「……アメールは……相手、もう決めた?」
「俺ぇ?…………まだ……でも、……んと……ちょ、チョット? き、気に……なる……人、は、居る……」
「…………そっかぁー。まー、アメールなら全然大丈夫だよな。儀式に駆け込み一分前でも、よゆーよゆー」
「何だ、そりゃ」
そう。アメールなら、誰も断らないんじゃないかな?
俺、知ってんだぜー。ここいら一帯の特にオス……男共は、大体アメールの"成人の儀"を、そりゃーもう、イチモツを長くして待ちわびてんのをさー? はははっ。
だって、成人の儀が終わったらアメールとそのまま、恋人・愛人同士になれる可能性大だからな。
そうそう、この世界は同性同士のカップルやノーマル、バイの方々がふつーにゴロゴロ居るんだ。みんな平和で良い事だよね?
「……そう言うクラサはどうなんだよ?」
「おれぇ?」
「そうだよ! クラサは……妙な視線、……感じない?」
「べつにー? アメールは何か感じるの?」
「んっ……。クティさん、とか、アジャスさん、ファブ、ゼフ……も、最近……。
後は何人かの知らない男の人から……。何だかたまにギラギラして見えて……俺、怖い……」
「モテ自慢か、アメールさん」
「もっ……!?? テ!?」
「そ。その男共はみんな、アメールと"大人の儀式"したいんだよー。くひひ!」
「……!!!」
動揺と同時にアメールの瞳が不安に潤んできた。
あー……っと、不安にさせちまったか。
ま、あの儀式で同性……男性が相手だと子供妖精は"受け手のみ"だからな。
長に"儀式"での図解説明を受けた後、アメールは頭で理解出来てもよっぽど怖かったのか、しばらく俺にしがみ付いてたもんな。
俺だって……怖いけど、実は興味は凄くある。
転生妖精な俺は、前世の知識と"自分"の情報を持ってこの世界に生まれたからな。
前世の自分は、経験は無いけどゲイでネコ側。自覚があるからか、儀式での覚悟も"ストン"と出来た。
だから俺はアメールを抱き締めながら「大丈夫だよ」と何度も囁いて、アメールが落ち着くまで付き合った。
そんな"うるうるアメール"には、これだな……
「……なぁ、アメール。"来る日の為"にキスの練習、しようか?」
「うん、……クラサ」
そこで俺はアメールと幼い頃からしてるキスを、いつも通り誘ってみた。
「ん、ん……ちゅ、ちゅ……」
「ちゅ、んんぅ……ちゅぅ」
"ぷちゅぷちゅ"と幼い口唇を合わせて、俺とアメールは幾度かキスをした。
そんな俺達は実はまだ深いのはした事が無いし、お互い求めない。
それは、『深いのは本当に、恋愛的に好きな人と』、と言う暗黙のルールが出来上がってるからだ。
更にアメールとのこのキスは同意の上で、全て"ノーカン"なのだ!
「……何だか落ち着いた。安心、してきた」
「そ? なら良かったな、アメール」
「うん、ありがとな。クラサ」
まったくアメールは変に鈍いんだからなー。
最後に"ぷちゅ"とアメールの頬にキスをして、俺はニコリと微笑んだ。
「アメール、安心して深くキス出来る相手が見つかると良いな」
「ん、ありがとな、クラサ。……クラサ、も、な?」
「そうだなぁー、うん」
んー。俺はカルティノとそうなりたいな~!
「……そんで? 結局俺に何の用?」
「ああ、それは……さ、儀用の衣装を早く作れって、長が。それと……」
「それと?」
「相手を早く決めろってさ。そうしないと勝手に決めるって……俺にもハッパかけてきた」
はぁ!?
「……勝手に決めるのダメ!」
「だよな!」
おうよ! それは絶対にイやだ!!!
「……んじゃ、相手を物色してきまーす!」
そう言って俺は葉っぱから飛び立った。
……物色どころか……俺は……。
「……………………」
……ちょっと……危険だけど、森の奥にある彼の家に行こう……かな?
声は掛けは勇気が……。無理。出来ない……。
だから、見るだけ。ちょっと見るだけだもん……。
「カルティノ……」
俺は彼の名前を口にしてから、背中の透明な翅を森の奥へ向けて動かした。
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