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第1話

「うわぁぁぁ。今度は耳かよっ!」  満月の光が差し込む寝室に結人(ゆうと)の悲鳴にも似た声が響いた。  すぐ隣で一緒に鏡を覗き込んでいた幼馴染の拓也(たくや)が、焦ったように結人の口を両手で押さえ込んだ。 「静かにっ!声がデカいって」  十七歳にしてはまだ中学生くらいの幼い顔つきではあるが、一本芯が通った意志の強さは幼い頃から変わってはいない。結人と拓也は家も近所で、幼稚園から現在の高校に至るまでずっと一緒だ。  高校受験の時に、進路指導の教師に「今の成績では無理かもしれない」と言われた拓也だったが、どうしても結人と同じ高校に行きたいがために、レギュラーでもあったバスケ部を辞めてまで勉強に励んだという経緯がある。  でも――理由はそれだけではなかった。  拓也は栗色の髪からニョキっと生えた三角の大きな耳に触れながら「ごめん……」と俯いた。 「おい。謝るなっていつも言ってるだろ!これはお前のせいなんかじゃない。俺が選んだ道なんだからっ」 「結人はいつもそう言うけど……。満月の度に、結人が結人じゃなくなっていってる。俺があのとき……」 「あ~っ!もうっ。その話はナシだって毎回言ってるだろ!」  ぐしゃぐしゃと髪を乱した指先には鋭く伸びた爪が光っていた。  照明を消した薄闇に浮かぶ青緑色の瞳。  鋭いながらも憂いを秘めたその色は、美しくはあったが拓也の心を苦しめていた。

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