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一歩の距離

「……なにをやったら、見合い帰りでこんな状態になるんですか?」 「……」 呆れ果てている敬一に返す言葉がない。 ……スーツはくしゃくしゃ泥だらけ、家を出るときはピカピカだった靴も土埃で真っ白。 どっからどう見ても、見合い帰りだとは信じられない格好だもんな。   そう。 今日、俺――阪口鷹也は見合いをした。 大学出て数年で、早く引退したい親父から社長職を押しつけられ、気付けば三十を過ぎてた。 そうなると俺は気にしてなかったが、まわりがそろそろ結婚をとなってくる。 別段、好きな女がいるわけでもなく、恋愛結婚にこだわりがあるわけでもなかったので、適当に親類が勧める見合いをした。 相手の女性は特別美人でもなければ、不美人でもない普通の人で、話してみてもやはりそんな印象だった。 きっと、いつものようにそのうち愛着が湧いて、それなりの夫婦になるんだろ、それくらいの薄い感情で結婚を承諾した。 いつも、いつもそうだ。 女性に対して強い愛情が抱けない。 付き合っているうちに愛着のようなものが湧いて、可愛いな、とまでは思う。 けど、それ以上の感情を抱けない。 結局相手もそのことに気がついて、別れることになるのだけれど。 まあ、嫌って別れたわけでもなく、云ったように愛着めいたものはあるわけで、その後も彼女たちとは友人として、彼氏の相談に乗ったりしたりしている。

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