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第1話

 「アハハ!よくやった僕!」  ここは特区と呼ばれる新興住宅地。とある条件さえクリアすれば住む事が出来る。これで貧乏生活ともおさらばだ。狭いワンルームアパートからロフト付き一戸建て。部屋も今までの倍の広さがある。バスルームもジェットバス付きだ。今日からここが僕の城になるんだ。  「く~」うつ伏せになって枕顔を埋めると、両足をバタバタさせた。  『ピンポーン』    突然の訪問者に僕は我に返った。「はーい」自室のPCからドアのセキュリティカメラを覗いて見ると男が三人。そのうち一人はなんと裸だったのだ。僕の家の前に裸の男が立っている!?こんなの近所の人達に見られたらどんな噂になることやら。素性は分からないがさっさと家に入れるしかない。  「今、ロック開けます」    場所をリビングに移し、向かい合う形でソファに座った。両端にスーツ姿の男が座り、中央に四十代前半の金属製の首輪をした裸の男が座っている。正直同性とはいえ目のやり場に困るのだが。  「葡滝工業大学2年、武藤宏太(むとう こうた)さんですね。」  「はい、そうです。」  僕の素性がバレている。何なんだこの人達は。  「申し遅れました。田町理工製薬会社の鈴木です。」  「同じく山口です。」  スーツ姿の男達は礼儀正しかった。ん?田町理工製薬会社ということは・・・  「初めましてご主人様。今日からお世話になります。」  「これが武藤様が、当選されたプラナリア人間でございます。」  「早速、手続きを開始してもよろしいですか?」  「は、はい」    僕の頭の中はぐるぐると混乱している。確かバイトの内容は人間の役にたった動物の余生の面倒を見るはずじゃなかったっけ。どうやら規則内容をよく読まずに応募してしまったらしい。バイトで何度か別のプラナリア人間達と仕事をしたことはあるが、僕専属となると話は別だ。  なんだかんだと手続きを終えて、「それでは私共は失礼します。」と男二人は帰っていった。  「ご主人様。水をどうぞ。」  「サンキュ~」  ペットボトルのキャップを開け、ゴクゴクと喉に流し込んでいく。緊張していた体に水が染み渡る感覚が分かるようだ。そういえば僕に水を渡したのは誰だ?  水を渡してくれた方を向くと金属製の首輪をつけた四十代前半の男が片膝をついてこちらをみあげているではないか。当然『アレ』も丸見えだ。  「うわああああああ!」  僕は驚いてペットボトルの水をそこらじゅうにブチ撒けてしまった。  「ご主人様、お着替えにならないと。それと何か拭くものを。」    裸の男が自分自身も濡れているのに、冷静に対処しようとする姿に僕は違和感を感じた。人間らしく振る舞っているが、それにしては手際がいいとは思えない。  背後から男の手首を掴みグイッと引っ張っる。 上手い具合ソファに上向きに乗った体は僕より頭一つ分高い。その上に僕が跨る。 「・・・ご主人様、何を?」  体は人間に似せて作られているが、やや細長の瞳が揺れていた。  冷静になれば、プラナリア人間は犬や猫、鳥・爬虫類と同じで服を着せる必要がない。専用のリードを付ければ裸のまま外に出る事も可能だ。    跨っていた体を重ねる様に体制を変える。  僕はできるだけ笑顔で。  「セックスに興味ある?」  ちなみに僕はノンケだ。  男は真顔で。  「あります!私達がいたドームでは誰もやり方を知りませんでしたから、是非やり方を教えてください。ご主人様。」  「やり方を知らない?」  冗談混じりで聞いただけだったのだが、医療用だから余計な事は一切教えず、必要最低限の生活に関する知識しか持ち合わせていないのだろう。  僕は男の上から退くとため息をついた。高額のバイト代の理由はこういうことか。  「僕は着替えてくるから、お前はそこで待ってろ。」  「はい。」  僕は自分の部屋で素早く着替えるとバスルームの隣の洗濯物カゴに放り込む。ついでにバスタオルを一枚持ち出してリビングルームに戻る。  戻ると男はソファに座って顔を覆って泣いていた。  「なんで泣いているんだ、お前は!」  ガシガシと濡れた髪を拭いてやると  「わかりません。突然涙がでてきて、私は本当にご主人様のお役に立ったいるのでしょうか?」  まだ、来て一日も経っていないぞ。途方にくれた僕は友人の一人にコールした。  二十分後『ピンポーン』  「やあ、来たよ~」  「助けてくれ。相澤。僕の手には負えない。」   相澤 健(あいざわ たけし)同じ学科を専攻する小太りの愛嬌があるヤツで、相澤の家は、プラナリア人間専門の病院をやっている。  「家の中と設備は説明したの?」  あっ、そういえばゴタゴタがあって(原因は僕だが)まだしてない。  それを察した相澤は  「お兄さん泣かないで。ご主人様もこの家に来たばかりでよく分かってないんだよ。あっ、僕?ご主人様の友達。」  「大変失礼いたしました。えっとあのご主人様のお友達ですよね。お茶も出さずに申し訳ございません。」  「いいよ。気にしないで。こらから僕がご主人様と君にこの家にあるものついて教えてあげるから。」  僕が着替えとPCを持って引っ越してきたのが今日の午前八時頃。相澤はたまに痛いところをついてくる。              

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