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第7話
卒業式当日は、朝から曇り空だった。退屈な来賓の話が予想以上に退屈で、体育館から教室に戻った頃には既に地面が湿っていた。
クラスメイトと写真を撮り合い、いよいよ学び舎を後にしようと下駄箱で靴を履き替えていると、周りの生徒がざわつき始める。
「あれって誰かのお父さん?」
「まっさか〜、お兄さんでしょ?」
「どっちにしてもカッコいい!」
スニーカーの紐を結び直していた雄介が人の気配に気付いて、俯いていた顔をゆっくりと上げる。
だんだんとスーツを着たその人がこちらへ近付いて来て、足元に置いていた荷物をまるで自分の物かのように持った。
「おじさんとおばさん、先帰ったから」
「秀彦…?」
「ほら、帰るよ…ウチに、ね」
少し大きめの傘を秀彦が持つ。雨脚はそれほど強くはない。
二人で入るには窮屈なそれを理由に寄り添って歩き出す。
「雄介、卒業おめでとう」
「ん、ありがと」
「明日、泊まりにおいで」
「えっ、荷物もう片付いたのか?」
雄介が母親に外出禁止令を出されていた間に、秀彦はもう隣の家には居なくなっていた。引っ越しとは言ったものの実家からそれほど離れていないため、必要最低限の家具を買い、荷物といえば当面の衣服や書籍の類だけだったので、家族だけで済ませている。
もう隣に秀彦がいないのだと思うと、雄介の落胆の様子はそれはもう酷いものだった。それを浮上させたのは、荷物が整理できたら泊まりに来てもいい、という秀彦の一言。
一方の秀彦も、その日を一日でも早く迎えたいが為に、ひたすらにダンボールを開けていったのだ。
「今まで我慢してたんだ、もう遠慮しないから」
「え、なんか言った?」
「二人で″卒業″しようなって言ったの」
くしゃりと雄介の髪を撫でたその掌が、みるみるうちに紅く染まっていく頬に触れるまであと数秒。
雄介の制服のポケットの中で、いつも持ち歩くようになっていたキーケースがカチャリと音を立て、使われるのを今か今かと待っていた。
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