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第6話
「……なんて、病人相手にするほど根性腐ってないけどさ」
「ん…ひ、でひこ?」
ふっといつもの顔に戻った秀彦が、傍に置いていたタオルで雄介の目元に滲む涙を拭ってやる。ゆっくりと雄介を抱き起こし、あらかじめ用意しておいたスポーツドリンクのボトルを開けて手渡した。
雄介がそれを飲んでいる横で、置いてあった着替えを手際良く広げていく。ボトルを受け取ると、雄介の着ていたシャツを脱がせて軽く背中を拭いてやり、すぐに新しいものを持たせた。
「ほら、襲われないうちに早く着て。おばさんとこの病院行くんだから」
「へあっ!?」
「あー……あと、コレ」
パーカーを羽織ったのを確認すると、秀彦が鞄から取り出した小さな包みを雄介の掌に乗せる。不思議そうにそれを見ていたものの、シールを綺麗に剥がして中身を取り出した。
包装紙を無造作に横に置き、掌の上の物をじっと見つめる。茶色い革のキーケース。留め具を外してみれば、見覚えの無い鍵が一つだけ付いていた。
「これ…?」
「新しいおれン家の鍵。まあ、卒業祝いに」
「…もう、引っ越すのか?」
「この時期だけ家賃一ヶ月分ゼロだっていうから、来週に引っ越す」
あとこれ住所な、とスマホを弄り、メッセージを送る。すぐに机の上に置いていた雄介のスマホが鳴り、それを手渡してやった。
地図でその場所を確認した雄介が、驚いたように顔を上げる。そこは今二人のいる場所から三駅ほどしか離れておらず、秀彦の大学が格段と近くなるわけでもない。
「なんでこんな近くに引っ越すんだよ!別に今のまんまでいいじゃん!」
「言ったでしょ?遠慮なく抱きたいって」
「…ま、さか」
キーケースを持ったまま固まってしまった雄介の隣に座り、そっと抱きしめる。
「早く治して、家においで?」
耳元でそう囁いて、再び熱の集まる頬を愛しげに撫でた。そう遠くない未来、その鍵の家に二人で帰る事を夢見て…
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